「高齢者のインフルエンザ予防のためのワクチン」コクラン・レビュー

2006年7月,コクランライブラリーの「高齢者のインフルエンザ予防のためのワクチン」レビューがオンライン出版された。以下はその要約と評価である。

(1) 要約
背景: 高齢者へのインフルエンザワクチンは世界中で推奨されている。
目的: 65歳以上へのインフワクチンの有効性(efficacyとeffectiveness)と安全性についての文献レビュー
検索戦略,引用基準,集積と分析: 略
主要結果: efficacy/effectivenessについて64の研究が採用され,その結果96のデータが集まった。

老人ホーム(ワクチンが合い,流行が大きい)でのインフルエンザ様疾患に対するeffectivenessは23%(6-36%)であり,インフルエン ザに対するeffectivenessには有意差がなかった(RR1.04:95%信頼区間0.43から2.51)。ワクチン接種率とインフルエンザ様疾 患罹患との相関はなかった。よく合ったワクチンの場合,肺炎(VE46%:30-58%),入院(VE45%:16%-64%),インフルエンザないしは 肺炎による死亡(VE42%:17-59%)を阻止した。
市井で生活している高齢者の場合は,インフルエンザ(RR0.19:95%信頼区間0.02-2.01),インフルエンザ様疾患(RR1.05:95% 信頼区間0.58-1.89),肺炎(RR0.88:95%信頼区間0.64-1.20)いずれに対してもワクチンは有効でなかった。
よく合ったワクチンの場合インフルエンザと肺炎での入院(VE26%:12-38%),全死亡(VE42%:24-55%)を防いだ。交絡因子を補正す ると,インフルエンザまたは肺炎での入院(VE24%:18-30%),呼吸器疾患(VE22%:15-28%),心疾患(VE24%:18-30%), 全死亡(VE47%:39-54%)に対するワクチン効果は増加した。
公衆衛生上の安全性という側面からみて,ワクチンは許容範囲である。
著者の結論: 合併症にもっとも効果的であるといわれる長期介護施設において,ワクチン接種キャンペーンは,少なくとも部分的には目的に達した。しかるに 信頼に足るエビデンスによれば,市井でのワクチン効果は今ひとつである。全死亡阻止について明らかに高くみえるワクチンの効果 (effectiveness)は,対照群間の基礎的な健康状態の不均等や他の系統的な差異を反映していると思われる。

(2) 評価
インフルエンザワクチンが世界中に広まるにつれ,一方でワクチン業界の提灯持ち論文が横行しつつも,他方でワクチン効果のない事実が次第に明らかにされ てきている。本レビューはそういった状況を如実に反映していると言えるだろう。対極はCDCの評価である。例えばRCTでの全死亡評価した本レビューでの 採用論文はわずか一編であるが,データ分析には症例対照研究,コホート研究文献が採用され混在している。それに対する言い訳が最後の結論である。

また,ワクチン株と流行株の一致がよくでてくるが,ワクチン評価をする際,このことは意味をなさない。インフルエンザワクチンの本質的な部分だからである。

採用文献の再評価やアウトカムの設定,RCT以外の研究をどう位置づけるかなど,より詳細な分析が必要なレビューではあるが,インフルエンザワクチン評 価の世界的困惑を,否定的に評価しているレビューと言える。要するにRCTでない論文を主として集めたため分析が主観的となっている。

(2006年10月)