コクラン・システマティック・レビューへ意見を送付

昨年10月号で山本英彦氏が紹介した,高齢者に対するイ・ワクチンの効果のコクランシステマティックレビューへの意見を送りましたところ,正式に認められた意見として掲載されました。これに対しては2月中に反論するよう著者に求められています。
コクランシステマティックレビューは極めて大きな影響力をもつものですので,施設入所者への接種を認めたこのレビューに科学的反論を加えることは重要 で,この掲載の意義は大きいと考えましたので,以下お知らせします。なお,原案は林が,高橋晄正先生の理論に従い作成し,圓山医師,柳医師の添削を受け, 最終的にはコクラン急性呼吸器感染症グループの担当者Tom Faheyがしています。それを,林が日本語に訳しました。ぜひ,コクランライブラリーで「elderly」と「influenza vaccine 」をかけて検索して,見てください。

「高齢者のインフルエンザ予防のワクチン」
Add feedback to this review/protocol Keiji Hayashi http://www.cochranefeedback.com/cf/cda/citation.do?id=9590#9590

「親愛なるRibtti氏へ,我々はあなた方のレビューにいくつかの疑問があります。
著者達たちは「このレビューに含めたコホート研究は選択バイアスによってかなり影響をうけている」とし,ランダム化比較試験の前方視的研究の厳密さと比 較できないが,イ・ワクチン(以下,イ・ワクチン)はインフルエンザの合併症に効果がある,と結論しています。彼らはランダム化比較試験はバイアスを最小 化するとしながら,ランダム化比較試験がほんの少ししかなく,明白なエビデンスを示し得ないとしています。もしそうならば,彼らは高齢者のインフルエンザ を予防するためのワクチンの良くデザインされたプラセボとの比較試験をすべきであると結論を修正すべきです。
しかも,彼らはプラセボと比較したランダム化比較試験は,イ・ワクチンが世界的に勧告されているので,不可能であるとしています。もしそれが本当なら, 世界的に実施されている勧告や医学的介入であれば,たとえそれらが明らかに間違っていても,ランダム化比較試験は実施することができなくなります。そのよ うな考えはコクラン共同計画の基本姿勢と相反すると考えます。
むしろ逆に,我々はランダム化比較試験が少ししかなく,また良くない状況であること,高いレベルのエビデンスなしに世界的にイ・ワクチンが勧告されていることを,倫理的に受け入れることができません。
著者達は,他の刊行された研究によれば,インフルエンザシーズンではワクチンは死亡率を44%下げることができたが,インフルエンザシーズン前ではイ・ ワクチン群は死亡率が61%も低かったことを報告しています。(ワクチンがもともと61%も死亡率の少ない人たちに接種されていたのに,インフルエザシー ズンでは死亡率を41%しか下げることができなかった=むしろ死亡率を上げた可能性がある。以下も同じ意味。)事実,イ・ワクチンを評価した日本のコホー ト研究でも,死亡率・発熱・学校の病欠でも大変な選択バイアスがかかっています。
例えば,65才以上の老健施設でのコホート研究では,ワクチンは全死亡率をインフルエンザシーズンでは51.9%引き下げたが,インフルエンザシーズン 以外では61.5%も低かったのです。この研究ではインフルエンザシーズンでは発熱を37.8%減少させていたが,インフルエンザシーズン以外でも 37.3%低かったのです。
子どもに対するイ・ワクチンの効果を評価した日本のコホート研究では,ワクチンはインフルエンザシーズンでは発熱を12.2%減らしていましたが,インフルエンザシーズン以外では17.3%も低値でした。
さらに,高橋晄正らは三重県の学校の病欠率についてインフルエンザシーズンとインフルエンザシーズン以外とを比較しています。この研究によれば,小学校 ではワクチンはインフルエンザシーズンでは26.1%の病欠を減らしているが,インフルエンザシーズン前では23.7%病欠率が低くなっています。中学校 の調査では,インフルエンザシーズンでは29.1%減らし,インフルエンザシーズン以外では31%も低値でした。
これらのコホート研究では,ワクチンをしたグループではむしろ,インフルエンザシーズンでは,インフルエンザシーズン以外より,死亡率や発熱率,病欠率が増えていたのです。
結論的には,コホート研究では,著者達が言っているように大きなバイアスがあり厳密な結論は言えないのです。コホート研究は,少なくとも,インフルエン ザシーズン以外の率でインフルエンザシーズンの減少率を補正すればより信頼できるかも知れないが,それらの結果はプラセボ対照ランダム化比較試験の結果に 置き換えることはできません。」

(2007年2月)