本「パンドラの箱を開けたのか」松本分六 著 エヌワイ企画

著者より送っていただきました。松本氏は30年ほど前,薬害「注射による筋短縮症」の取り組みでいろいろ教えていただいた方です。その後は経営されてい る「天心堂へつぎ病院」の機関誌を拝見させていただいています。最近では,私が書いた医療法改悪案批判の文章を送らせていただいたところ,ご検討いただ き,いくつかの意見の相違点を指摘していただき,大変うれしく思いました。
この本は,5部に分かれています。第1部が医療情勢分析です。最近の医療改悪が患者さんにいかに悪影響を与えているかが詳しく分析されています。第2部 は大分県だけでなく日本全体の地域医療に貢献されてきた天心堂の活動を紹介されています。第3部は脳死など生命倫理,第4部は著者が若き日の情熱を注いだ 筋短縮症・未熟児網膜症,第5部はノモンハンへの御尊父の戦友の慰霊の旅から憲法9条改悪反対の意見を表明されています。多くの意義ある内容がこめられた 本ですので詳しくは読んでいただくことにして,その際に私が少し気になった内容を記させていただきます。

松本氏は,日本の政治がアメリカに従属し,医療もそうだとされています。その証拠が私的医療保険分野でアメリカ企業に優先権を与えたことをあげておられ ます。確かにそういう事例は多々あり,その代表は農業です。しかし,これは日本政府が米企業全体の利益を最優先させるのではなく,トヨタなど日本の政治に もっとも影響力がある企業の利益を保証するための譲歩にすぎないのです。米政府のいいなりなら,なぜ米自動車産業を圧迫しているトヨタを農業のように破壊 しないのでしょうか。私的医療保険にしても,このような文脈の中で,一時的に米保険会社に優先権を与えたのですが,近年では住友や日本生命の医療保険が激 しく食い込んでいます。医療改悪の最大の原因をアメリカに求めるのは,医療改悪で最も大きな利益をもくろむ日本大企業から目をそらせ,戦う相手を間違える のではないかと危惧します。
もう一つは,今の政府の目標は,この5月の経済財政諮問会議議事でも改悪の具体案がでている公的医療機関の問題です。それなりに医療の均等性を保証して きた自治体立病院などをつぶして大資本の経営に代えていくことです。この本では,公的病院への補助を攻撃するかの表現があります。いま公的病院を守らなけ れば,小資本の病院は自治体病院にかわった大資本との競争にさらされるのではないでしょうか。

以上のような多少の違いは別にして,薬害や脳死問題,なによりも,患者のための医療を追求されているのが著者だと思います。氏は今回の参議院選に出られることをニュースで知りました。これまでの医療改革の実践を政治家としてもぜひ実現していただきたいと期待しています。

(2007年5月)