便秘の薬物療法のエビデンスは乏しい

4月の臨床懇話会では,精神科患者の巨大結腸症・便秘について,腹部レントゲン写真とともに紹介していただきました。とくに精神科長期入院患者では便秘 や巨大結腸症・麻痺性イレウスがしばしば問題になります。長期入院患者の便秘の要因として,運動不足や排便に必要な筋力の低下,排便に関する関心の欠如, 薬剤の影響などが考えられます。薬剤に関しては,抗精神病薬や抗うつ剤とくに三環系抗うつ剤などで,抗パーキンソン剤としての抗コリン剤併用時に便秘が多 くなるとされています。抗コリン作用をもつ向精神薬投与により慢性便秘となり,下剤連用の副作用も加わって結腸の拡張や腸管神経叢の萎縮が生じ,便秘がさ らに増強するという悪循環も推測されます。

便秘の解決のためには,十分な食物繊維と水分を含む食事,運動で排便回数を調整することが一般的に勧められています。しかし,Cochrane Libraryで検索しても,食物繊維は非妊婦に対して便回数と便の軟化に効果はあるものの,全般的に便秘の薬剤治療のエビデンスはほとんど見当たりませ んでした。PubMedで検索すると,小児の便秘に対して,ポリエチレングリコールやtegaserod,シサプリドが便通改善に有効といえるようです。 しかし,ポリエチレングリコールは大腸内視鏡や術前処置用で,tegaserodは日本では未発売,シサプリドは成人での不整脈との関連のため販売中止と なっており,やはり便秘の薬物療法のエビデンスは乏しいようです。

かつては,抗精神病薬を中心にとくに精神科入院患者では多剤大量療法がしばしば行われ,下剤投与にもかかわらず,麻痺性イレウスがしばしば生じていまし た。抗コリン作用の強い従来型の抗精神病薬から現在主流の非定型抗精神病薬に移行が進み,処方の単純化も進められる状況で,以前ほど麻痺性イレウスがみら れることはなくなった印象があります。非定型抗精神病薬は効果や有害作用で従来型に必ずしもまさるとはいえないのですが,抗コリン作用が少ないだけ,少な くとも便秘に関しては有利のようです。ただ,これも,処方が単純化され,多剤大量療法が若干でも改善したことの影響かもしれません。薬物療法以前に,便秘 を生じやすい薬剤の中止や,食物繊維を含む食事への配慮,作業療法をはじめ適当な運動を含む活動への促しなどをまず考慮すべきだということは言えそうで す。下剤の乱用は腸管神経層を萎縮させて腸管運動を悪化させることが推測され,安易な下剤の使用は慎むべきようです。

(2007年5月)