インフルエンザ評価の新しい論説(PEDIATRICS 9月号)について

今年もまたインフルエンザワクチン接種が開始される季節となりました。先日も乳児健診で「三種混合と,どちらを先に受けたら良いですか?」と質問され, 受けるのが当然と思い込んでおられるお母さんの表情にインフルエンザワクチンの浸透ぶりを今さらながら思い知らされました。その時,丁度この文献が手元に あったので,接種を勧めていない私の考えを「こんな報告があるのですが」と,お話する事が出来ました。

米国ではインフルエンザワクチンについては2002年から2004年にかけて6ヶ月から23ヶ月の子どもへの接種が勧告され始め,2006年には24ヶ 月から59ヶ月の子どもに接種が勧められる事となりました。この論説は「何人の子どもに接種すれば一人のインフルエンザ患児の受診や入院を防ぐことができ るか(Number Needed to Vaccinate:NNVと略)」を概算することで,6ヶ月から59ヶ月までの子どもに接種勧告されているインフルエンザワクチンの効果を評価しようと しています。

まず6ヶ月から23ヶ月の子どもと24ヶ月から59ヶ月の子ども1000人あたりのインフルエンザによる入院人数と受診人数をそれぞれ公表されたデータ (研究所で診断された患者数や健康保険を介した行政の資料より得られた人数で,入院では3文献,外来受診では4文献を採用)から求められています。そして 著者らは文献上このワクチンは25%から75%の効果があるとされているとして,25%,50%,75%の効果で入院人数や受診人数がそれぞれ何人減少す るかを計算します。それを基にして,3段階の効果ごとにNNVを算出しています。50%の効果があると仮定すると,6から23ヶ月の子どもの入院NNVは 1031人から3050人,24から59ヶ月の子どもの入院NNVは4255人から6897人になり,6から59ヶ月の子どもの外来受診NNVでは12人 から42人と算出されています。

日本では1960年学童に対して集団接種が開始されましたが,1999年まで国として流行状態や有効性を示す調査研究はなされませんでした。2000年 度から2002年度までの厚生科学研究「乳幼児に対するインフルエンザワクチンの効果に関する研究」の最終報告(発熱基準を39度に変更して有効性を検 出)が2004年5月に公表され(この研究データについては医問研の山本英彦氏が批判文書を発表されています),日本小児科学会はこの研究結果を根拠とし て「1歳以上6歳未満の乳児については・・・有効率20-30%であることを説明したうえで任意接種としてワクチン接種を推奨することが現段階では適切」 としています。
そこで有効率20%として,この論文にある1000人あたりのインフルエンザ入院患者数や外来受診者数を基にしてNNVを算出すると,1人の入院を予防 するためには,6-23ヶ月で5000人程度にワクチンをする必要があり,24-59ヶ月では14000人が必要。1人の外来患者を減らすために は,60-70人にワクチンする必要があると言う事になります。

算出の基礎となったインフルエンザ罹患者数を提示した採用文献を検討する必要があるものの,上記のNNVでもって著者らが「控えめな効果の年でさえ,イ ンフルエンザワクチン接種は小児でのインフルエンザによる受診を目立って(significantly)減少させることができる」と結論づけていることに 非常な疑問を抱きます。

(2007年10月)