急性中耳炎への抗生物質投与

急性中耳炎で,1年以上の期間をおいて二人の耳鼻科医の治療を受けた。最初の医師からは,3日間以上の点耳薬使用はかえって良くないとの説明を受けた。 初回は副鼻腔炎に続いて発症したので経口抗生物質の投与期間の違いはあって当然と思っていたが,二人目の耳鼻科医の処方期間は明らかに長く,特に点耳薬に ついては「なぜこんなに違うのか?」と正直びっくりしてしまった。確か1997年9月に開催された「医薬ビジランスセミナー」で「急性中耳炎は抗生物質を 投与しなくても治るんですよ」「抗生物質投与は意味がないというコントロール・スタディがあります」との発言もあった。小児の中耳炎については近隣の耳鼻 科医にお任せしているが,今回我が身に降りかかり「やはり調べておかないと」とやっと動きだした私です。

文献検索の方法
EBM Reviews Full Text – Cochrane DSR, ACP Journal Club, and DAREに入り,Acute Otitis Media (以下,急性中耳炎)& Treatment &「 Child or Children」,2001年〜2005年で検索すると,58文献にヒットした。その中で検索目的に直接関係するのは8文献であったが,その全てが Cochrane Library,MEDLINE,EMBASE,CINAHLなどを探索したmeta-analysisで,それぞれは832人(2歳以下のみ)から 18242人を対象とする5から81の,RCT(或いはコホート研究)を評価していた。

レビューの要約
研究目的は,自然治癒する可能性のある急性中耳炎に対して,
1) 抗生物質治療の役割は? 2) 投与するなら,どの抗生物質を,3) どの期間投与すべきか?
などであった。点耳薬の治験をレビューしているのは1文献のみだった。著者らの結論としては,

1) 効果・利益はあるが,その程度は小さい
2) 初期治療としてはアンピシリンやアモキシシリン
3) 10日投与が標準とされているが,5日投与で可能

などであった。

教科書の記述
小児科教科書として日本で有名なネルソンの記述に眼を通すと,第15版では項目「TREATMENT」の最初から,「治療は,原因菌とその抗生物質感受 性テストの結果によって決まる」とあったが,第17版では次のように変更されていた。「通例は抗生物質で治療されてきた。しかし耐性菌増加との関係から, 症状が2〜3日も続いていないとか,増悪傾向でない症例には抗生物質投与の保留が勧告されてきている。この勧告は,急性中耳炎の治療でなく滲出性中耳炎の 治療や急性中耳炎の再発予防に多くの抗生物質が使用されてきたという事実を考慮して調べねばならない。…中略…耐性菌の流行が拡大し続けているなら,リス クの低い子どもで,より軽度な症例では初期治療の保留は考慮する価値があるだろう。」
この記述は今回抽出したmeta-analysisの方向性とは違うものに感じられる。ネルソンの記述の根拠となった研究が何なのか直ぐに判読できな かったので引き続き検討したい。どちらが臨床での正確さをめざしているものなのか?実践的指針は何か(ビクシリン等を5日間? いつ開始?)を確認するこ とが,次の課題のように思われた。