耳鳴りの治療法

耳鳴り(tinnitus)の治療法

脳出血後の方が,耳鳴りが大変苦痛だと相談に来られました。そこで耳鼻科の方に相談しますと,耳鳴りは基本的には治す手段がない,墓まで持って行かない としようがないということでした。いい加減な治療法を薦めるよりずっと適切な答えかもしれません。しかし,相談されたのは私だからと思い直して,一度耳鳴 りの治療法がどの程度研究されているのかを調べてみました。
まず,コクランライブラリーでtinnitusを検索して見ますと大変多くの研究がされていることがわかりました。系統的レビューでは,「Ginkgo という漢方薬」が効くという研究は多いが,質が悪く,質のよい研究では効かないとなっており根拠がない,「高圧酸素」は根拠なしという結果でした。抗うつ 剤と認知行動療法がレビュー中で結論が出ていませんでした。耳鳴りの研究全てを調べたイギリスNHSの1999年のレビューがありました。これは大変詳し いもので,あとで述べるクリニカルエビデンスの基礎になっていると思われます。RCTは実に554論文もありましたので,これらを見るのは大変です。
そこで,根拠をきちんと示している信頼できる「教科書」クリニカルエビデンスClinical Evidenceを見てみました。これは掲載されている項目が少なく,空振りが多いのでつい後回しにしていました.しかし今回は,tinnitusという 項目があり,しっかり書かれていました。
まず,amitriptylineという3環系抗うつ剤が,うつ病でない耳鳴りの人に6週後の評価でプラセボより有意に改善したという小さなRCTがありました。しかし口が渇くなどの副作用もあり,利益と害が拮抗しており,その他は以下の通りでした。

<効果がはっきりしないもの>
鍼,ベンソジアゼピン,電気・磁気刺激,Ginkgo biloba(漢方薬),
高圧酸素,催眠,低出力レーザー,ニコチン酸,心理療法,
音を出して耳鳴りをマスクする器具,トレーニング,亜鉛,
baclofen,Cinnarizine,Lamotrigine

<効果がないか害がある>
抗痙攣剤カルマゼピン

<将来検討必要>
補聴器

今回の調査の反省点は,まずクリニカルエビデンスを調べなかったことです。それによって,多大な時間を使いました。結論的には,耳鼻科の方の言われるように確かな治療法はないようです。重度の場合には3環系抗うつ剤を慎重に使ってみることは許されるかもしれません。