薬のコラムNo.145:ポリオ生ワクチン被害の実態を無視し国産不活化ワクチン開発に固執する厚労省

6月下旬,厚労省が(財)日本ポリオ研究所に対し,0〜7歳の約100人を対象とした不活化ポリオワクチンの臨床試験(治験)のやり直しを命じたとの新 聞報道があった.同30日ワクチントーク全国のメンバーで予防接種情報センター京都を主宰しておられる栗原敦氏が厚労省医薬食品局審査管理官に質問された ところ,「薬食審薬事分科会医薬品第2部会にかかる前段で,医薬品医療機器審査センターにおいて承認申請された際の資料をチェックしたところ不備が見つか り臨床試験やり直しが指示された」との説明であった.2001年7月に承認申請していた治験の審査報告が3年後になっている事にまず驚いた.やり直しの理 由は,「問診による対象者の体温の記録がなかったり,接種後の調査に不備があったりするなど,省令で定める臨床試験の実施基準を満たしていない」「有効性 や安全性を評価する以前の問題」との報道だが,本当なのかな?と疑ってしまう.

日本ポリオ研究所は1980年代より不活化ワクチンの研究・開発を続けており上記のような「しくじり」で貴重なデータを反故にするだろうか?2001年 頃には「当研究所製・ポリオ不活化ワクチン(IPV-JP)の臨床試験を進行中で2003年4月から供給可能」との報告をホームページに掲載しており,ま た2002年4月19日付けで「当研究所では不活化ポリオワクチン(sIPV)の開発を進めています。sIPVの臨床試験を終了し,現在,厚生労働省で承 認のための審査中です」と報告している.今回,厚労省が「データの信頼性に欠け,評価できない」としたのは一体どちらの治験なのだろうか?また「同研究所 は今秋から100〜150人規模で再び臨床試験を実施する」「終えるまでに少なくとも2年程度かかり,新ワクチン承認はその後になる」との事だが,国立感 染症研究所の報告によると,不活化ワクチンは40ヶ国以上で使用されており少なくとも1億2千500万人以上に接種されている.100人台規模の治験を何 回繰り返すつもりなのだろうか?

WHOによるポリオ根絶宣言は1994年に南北アメリカ地域,2000年に日本が含まれる西太平洋地域,2002年ヨーロッパ地域に出されており,野性 株ポリオウイルスの伝播は1988年には125ヶ国であったが2001年には10ヶ国(北部インド,パキスタン・アフガニスタン,アフリカ地域)と報告さ れている.日本では1971年,1980年の各1人を最後に野性株ポリオウイルスによる患者発生は無いにもかかわらず,1970年〜2001年に37人の ワクチン関連麻痺の発生があった.またワクチン株ポリオウイルスが定期接種後約3ヶ月間,汚水や河川から分離され,その中には病原性を有する変異株も検出 されることが明らかになっている.厚労省と日本ポリオ研究所がやり取りゲームをしている間,日本の子ども達がワクチン関連麻痺の危険性にさらされ続けるこ とになる事に対して私達小児科医はどうすれば良いのかと考え込む.