本「どうするどうなる障害者自立支援法」障害者生活支援システム研究会・編 かもがわ出版

障害者自立支援法(以下「法」と略す)施行から3年目となる2008年に入って,社会保障審議会障害者部会が再開され,政府の見直し審議が始まってい る。政府は障害者や事業者からの大きな抗議活動に直面して,おもに負担軽減措置やサービス単価の改善など,部分的修正を余儀なくされたが,定率(応益)負 担そのものや自立支援医療には手をつけず,障害の範囲や障害程度区分についてもほとんど見直されていない。

障害者の自立は,日常生活関連動作の自立,就労を含む社会生活の自立,自己決定・主体性の発揮という意味での自立という,少なくとも3つの意味をもつの に,「法」は就労にほぼ限定している。利用者負担については,社会参加もおぼつかない額しか手元に残らない実態を改め,EU並みに利用者負担はないか応能 負担にすべきである。障害者の範囲は,援助が必要な者すべてとし,障害程度区分は廃止してニーズに基づく制度に切り替えるべきである。福祉事業所は「法」 移行後,報酬単価引き下げのために,人件費削減,正職員の非正規化を強いられているが,原則として有資格の正規職員での支援を可能とするサービス費用単価 とすべきである。

1950年の社会保障制度審議会「社会保障制度に関する勧告」は国家の社会保障責任を謳っていたが,1996年の社会保障関係審議会会長会議「社会保障 構造改革の方向(中間まとめ)」は,公正・公平・効率性の確保,自助,共助,公助の考えを導入し,社会保障を権利としないことを前提とした。「法」は社会 福祉構造改革路線の思想を障害者分野に体現するものである。2003年には社会福祉事業法が社会福祉法に「改正」され,国や地方公共団体の社会福祉実施責 任が放棄または大幅に後退させられた。サービス提供は原則として措置制度から利用契約制度となり,市場化が全面的に打ち出された。

2008年5月国連「障害のある人の権利条約」(以下「条約」と略す)が発効されたが,「条約」は,障害は機能障害のある人と態度上及び環境上の障壁と の相互作用であると明記し,障害を社会問題ととらえている。独立した生活及び地域社会へのインクルージョン,十分な生活水準及び社会保護を中心に,教育, 健康,労働及び雇用,政治的及び公的活動への参加などを権利として確認している。一方,「法」では,
・原則1割の利用負担のために必要な福祉サービスが受けられない,
・障害程度区分は一律にサービス利用制限に利用されている,
・都市部以外ではサービスが限定ないし皆無,
などの問題点があり,国際的な最低基準の「条約」にすら違反しているのは明らかである。

障害者運動は,それぞれの立場を超え,幅広い共同の取り組みとして展開され,政府に一定の修正を余儀なくさせた。10月31日には自立支援法の大フォー ラムも予定されている。障害者に限らず,貧困が拡大して一人一人の生きづらさが広がる中で,取り組みの基盤も広がっている。障害者運動と連帯して,「法」 の抜本的改正と障害者の権利拡大をかちとらなければならない。本書は障害者福祉の歴史的変遷と目指すべき方向性を整理してくれている。一読をお薦めする。

2008.10 U