本「脱メタボ」に騙されるな! 佐藤 純一,浜 六郎,和田 知可志 著  洋泉社

メタボリック・シンドローム・キャンペーンに対する力強い批判書が出た。メタボの非科学性の検証,厚生行政の狙い,国をあげた創病への批判,の3部構成となっている。以下,目次を列挙しておく。:
第1部メタボ基準の非科学性と罪業を暴く,1不可解なメタボ基準,2ちょっと太めでコレステロール高めが長生き,3本当の「危険」は薬剤にある.
第2部メタボ健診は病んだ厚生行政の産物だ,1「メタボ健診」をめぐる噂の真相,2矛盾だらけのメタボ健診,3目的は国民の健康より医療費削減.
第3部メタボ概念を取り巻く社会の”思惑”,1<ヘルシズム>とメタボの流行,2<近代医学>がみる”病気”の概念,3<国家>が創作する病い.

第1部では浜氏が不可解なメタボ基準を丁寧に解説し,この基準で危険性の高い人々(ハイリスク群)をみつけることはできないことが明らかにされている。 「薬のチェックは命のチェック」を発行しておられる氏は,「本当の『危険』は薬剤にある」と断言しておられるが,不要なコレステロール低下剤の服用や過度 の降圧が寿命を縮める危険性のあることは,医問研でも繰り返し紹介して来たエビデンスである。
第2部で和田氏はメタボ流行の恐ろしさを解説されている。かつてこれほど全国民を熱狂に巻き込んだ健康増進キャンペーンがあっただろうか?実は「メタボ 健診」(特定健診・特定保健指導)は厚労省のこれまでのキャンペーン失敗に対する反省の上に展開されていることが分かる。まず,日本内科学会の囲い込みで ある。本キャンペーンは従来の公衆衛生行政の延長線上にあるのではなく,内科医全体を取り込んで推進していく仕組みとなっている。そして,一方で公的医療 費削減と「自己責任論」を強調しながら,他方では,従来,医療保険で扱うことのできなかった健診を診療行為に組み込み,患者の拾い上げをさせようという計 画である。これによって,健診から治療までことごとく民営化していき公的医療費を切り縮めようというのだ。
第3部では佐藤氏がメタボ流行の背景にある国民の健康不安を取り上げている。不況の時代にあって,病気になることは生活の崩壊に直結している。だからこ そ「健康のためには多少の犠牲を払っても良い」という不安な人々が増加しているのであり,メタボ・キャンペーンはそこにうまくつけ込む。そして「目に見え るもの」で病気を予防できると誘導しているわけである。そこでは,科学的な病因論や確率などとは無縁に「こうすれば良い」という画一的な企業宣伝など,国 をあげての病気創りキャンペーンが展開されているのである。
本書は,今後の取り組みの方向性を考える上で貴重な資料となると思う。ご一読をお薦めする。

2008.11 Y