小児にとってインフルエンザは特別に怖い病気だろうか?—ワクチンの効果のなさと解熱剤の危険性

小児のインフルエンザ「恐怖症」は,2005年度ころがピークだったと思われるが,依然として続いているようである。ワクチン接種率でみると,13歳以下の接種は2003年度28%,以後04年度38%,05年度52%,06年度40%,07年度41%となっている。
高齢者のインフルエンザ死亡はマスコミに載らなくなったが,トリインフルエンザ,新型インフルエンザの怖さが流布されている。
ある出版社からの依頼もあり,小児インフルエンザは実際にはどの程度「怖い」病気なのだろうかという点について,当院での臨床経験,文献から疾患の重症程度を調べ現状を分析した。そのうえで,インフルエンザがなぜ怖い病気にされてしまっているのかを考察した。

1) 呼吸器疾患としての小児インフルエンザは他の「かぜ」と区別できない
意外なようだが,インフルエンザは他のかぜに比べ,発熱期間は長い傾向にあるが,肺炎,中耳炎,クループなどの合併症は,ほかのかぜとの区別ができなかった。ICUに入室するような重症例もなかった。

2) 入院は少ない
救急を受診した患者さんについてみると,流行のピーク時には一週間で小児救急外来受診患者さんの30%をインフルエンザが占め,インフルエンザ流行月の 救急受診者数は非流行月の受診者数を上回った。入院患者さんについては,特にインフルエンザ流行月に入院患者さんが多いということはなかった。つまり,数 は多いが,入院は少ないという結果であった。
このことは文献的にも裏付けられており,小児インフルエンザ入院は1/1000例ほど,その25-100倍の感染者がいて,インフルエンザと気づいてい るのは20%以下との文献もあった。つまり,インフルエンザ罹患小児の99.9%以上は,ただのかぜであるということである。

3) けいれんについて
インフルエンザは,けいれんを合併することが多い。けいれんで受診しインフルエンザと診断される場合も多いので,実際の頻度はもっと少ないと推定できる が,6-8%にけいれんを合併する。その内訳をみると,単純な熱性けいれんが多く,重症な熱性けいれんは少なかった。文献的にもインフルエンザはアデノ ウィルス感染,パラインフルエンザと同程度にけいれんを合併するが,重症けいれんの合併が特に多いということはないという結果であった。

4) 脳症について
おそらく小児インフルエンザを怖いと思わせるのは関連脳症の宣伝だった。ところがポンタールやボルタレンとの関連が言われ,中止後明らかに脳症症例は減 少,2005/6年にはピーク時の1/7,32例の報告になった。ワクチン接種者の脳症発症率も,非接種者の発症率も同じのため,これはワクチンの効果で はないことが明らかとなってきた。

5) 不要なワクチンのために
「インフルエンザはかぜじゃない」という標語もワクチンを広めるために生まれた。脳症の恐怖も「ワクチンをしていないから脳症になった」として,ワクチ ンに利用された。しかし脳症や肺炎,中耳炎の合併もワクチンで減らないことが明らかになってきた。もともと感染を阻止できないワクチンであることは世界に 先駆けて日本が証明した。
ワクチンの効果のなさを補い,接種率を上げるにはインフルエンザを特別怖い疾患に仕立て上げるしかない。現在それは高病原性トリインフルエンザの恐怖を あおることであり,あいまいな形でそれと新型インフルエンザの世界的流行を重ね合わせることである。医療従事者や集団生活をする者に対する責任も強調され ている。
ワクチンを広めんがために疾患としてのインフルエンザそのものの科学がゆがめられているというのが現在のインフルエンザを巡る問題と思われる。

2008.11 Y