迅速検査キットの意義(2008年12月)

昔は,臨床現場では感染症の診断はまるきりの臨床診断がほとんどで,例外的に髄膜炎など重症患者や,流行調査や食中毒などの公衆衛生的目的で,ウイルス 培養をすることがほとんどでした。しかし,現在ではその場で判定できる検査キットができてきて,ある意味では大変便利になりました。日本小児科学会でタミ フルの議論がされたときに,タミフル消費が世界の8割であった日本が異常という私たちの主張に対し,タミフル推進派の人はタミフルの異常使用は「インフル エンザ迅速診断ができるようになっている我が国の保険医療の誇るべき成果」だと反論していました。
その直後から医療崩壊が叫ばれるようになりました。全体に医療費,特に人件費がおさえられ,薬や検査には高い保険点数が設定されていると思われます。先 日,ノロ検査がインフルエンザ検査と同様の値段でキットが売られていることを知りびっくりしたところです。ただしRSは入院でしか保険点数がつかず,ノロ は全くついていません。
現在,小児科・内科で使われている微生物の迅速検査キットは,
1)溶連菌,
2)インフルエンザ,
3)アデノ,
4)ロタ,
5)RS,
6)ノロ
だと思います。これらの検査は,一般の診療所や病院にとっては,病気を診断することが目的です。そして診断は治療方針を決めるためのものです。いくらいろいろ診断しても治療方針とつながらなければ患者にとってのメリットはありません。
具体的に考えますと,1)の溶連菌では,すぐに治療方針とつながり,陽性ならペニシリンなどの抗生物質投与が開始され,議論はありますが,その後の急性腎炎発症のフォローにつながります。陰性なら,症状の似た他の疾患を考えることになります。
2)以下は全てウイルスで,ウイルス自体への治療薬はありませんから,対症療法となります。唯一,インフルエンザだけがアマンタジンやタミフルがありますが,問題点はご存じの通りです。したがって,診断の利益はほとんど無いことになります。
もしあるとすれば,インフルエンザだから心配ありませんとか,RSだと呼吸状態に十分注意してください,と言えることです。しかし,インフルエンザだって,喘息が悪化して入院しなければならないことだってあります。
昨今は,保育所や幼稚園の指示(?)で検査を要請されることがあります。多くは休ませる根拠のためのようです。病院ではRSやノロウイルスの場合は院内感染対策で必要になるようです。
これらのウイルス感染迅速検査キットがもたらした課題に科学的に答えを出してゆく必要があり,医問研の今後の課題としたいと思います。

2008.12 H