本「現代社会保障論—皆保障体制をめざして—」 里見賢治 著  高菅出版

この3月29日に開催される「社会保障拡充をめざす集い」(http://hanhinkon.exblog.jp/i7/)の準備過程で,以前より尊敬していた里見氏のこの本を知りました。期待どおり,徹底的に労働者・市民の立場に立って,現状の社会保障の分析とその解決の方向が書かれていました。また,この種の教科書的な本としては破格にわかりやすい文章で感心しました。
この本は,10章に分かれています。まず「現代の国民生活と社会保障」「社会保障の体系と概要」で,社会保障全体の解説がされています。社会保障制度は 「人生の途上で出会う様々な生活過程上での事故や起伏(貧困・疾病・—略—等の生活障害)に対して,公的に生活保障やサービス保障を行う制 度」(p.23),「社会福祉」は「生活過程で出会う様々な困難や障害に対して,社会的な支援を通じて自立(自律)を援助する施策やサービスをい う。」(p.59)など,社会保障を理解する上での明確な定義がされています。
以後の各論では「公的年金」「医療保障」「介護保障」「雇用保険」「労災保険」「民間保険」「社会保障の実施体制」が簡潔に紹介されています。
里見氏が他の多くの社会保障論者と基本的に違うところは,社会保障は基本として税金による公的保障であるべき,としていることです。これは介護保険の成 立過程で議論のあったところで,私たち医問研も介護は保険ではなく公的保障であるべきとしましたが,里見氏は「公的介護保険に異議あり」(ミネルヴァ書 房:二木立氏,伊藤敬文氏との共著)で明確に主張されています。
医療保険に関し,「保険では経済的理由などから保険料を負担できない低所得社会層は社会保険のカバーする対象から脱落せざるをえないという排除原理を 持っているからである。」(p.179)また脱落すると「(医療)保護開始と同時に国保から脱退させるという処置は,それによって被保護者が感じるスティ グマ(汚名)を始め様々な問題をはらんでいる。」(p.57)として,保険制度の基本的問題点を指摘されています。そういう意味で医師会や保団連・保険医 協会などの「どこでもだれでも保険証一枚で」や「世界に誇る医療保険」などと医療保険を持ち上げるのは「排除される」側を見ない支配者の論理だということ が明確になります。国保の世帯の滞納率が2割近くになり保険の「排除」が拡大し,とても「社会連帯」などと言えない状況がそれを証明しています。
そこで,氏の提案は医療では「皆保険」ではなく「皆医療」体制をめざして,保険から公的医療費に変換してゆくべきとしているのです。そして保険は,基本的医療に上積みする補助的な制度として,生活の変化の大きすぎるギャップを補うものとされています。
また,「少子高齢化による財政の圧迫」の嘘を明確に証明されているのですが,その点についても,3月29日の講演をお楽しみにしてください。その他,里見氏の紹介は上記ネットを参照して下さい。

2009.2 H