本「ウェブ汚染社会」尾木直樹 著 講談社+α新書

法務省は3月末,学校でのいじめが07年には過去最多だった前年の2.2倍を超える2152件,インターネット上のプライバシー侵害や名誉毀損は前年比 48.2%増と報告している。大阪市教委は市立中学・高校の全生徒約7万人を対象にしたパソコンや携帯電話に関するアンケート調査(回答率86.8%) で,「インターネットの掲示板やブログに悪口を書かれた」「他人に自分の名前を勝手に使われた」「メールで悪口を流された」などの嫌がらせをされたと回答 した生徒が,約7000人いたことが分かった。中学,高校とも5割強が「誰が嫌がらせをしたか分かった」としたが,被害者の約3割は誰にも相談しておら ず,一方で中学,高校でともに8%(約5000人)が「自分も嫌がらせをした」と答えている。その理由の多くは「相手が気に食わない」「自分がされた仕返 し」としている。「ネットいじめ13%被害」と題するこの報道に接して,あらためて匿名性を特徴とするネットを介して疑心暗鬼の心情におちいらされる子ど も社会のしんどさに思い至り,また同級生を殺害してしまった「佐世保事件」(2004年6月)の痛ましさを思い出した。
日々仕事や私生活で便利さを享受している「ネットや携帯」が,子どもたちの生活に浸透すると,人格形成にどのような役割を果たす事になるのかなー?と か,匿名で不特定多数の人に発信するブログは,様々に揺れ動く自分を見つめなおし,自分の生き方を考え直したり,本当の人とのつながりを深めることを助け る作業になるのかなー?と考えていた時この著作に出会った。尾木氏は以前この欄でも紹介した「子どもの危機をどう見るか」「思春期の危機をどうみるか」の 著者で臨床教育学を専門分野とされている。
本書の構成は5章から成っている。第1章:全国4000人へのアンケート調査をもとに,インターネットと子どもの生活実態を明らかにしている。第2章: 今日の子ども・青年のコミュニケーション不全の実態と課題を浮き彫りにすることによって,将来的にコミュニケーションスキルを危うくし,対人不信の根を太 らせる不安を秘めた,子どもとネットの危険性に言及。第3章:ネットの持つ危険な要素と被害の現状を掘り下げている。第4章:この新たな危険に対する家庭 での対策を提言。第5章:新たなコミュニケーションのあり方とそのなかでの親の役割,親子関係を解明する試み。
本書によって,ネットが子どもの生活に与えている影響に自分がいかに無知であったかを思い知らされた。と同時に,約30年にわたり続けられている「子ど も全国交歓会(子全)」の取り組みの重要性を再確認する事となった。ちなみに今年の子全は春休みの3月末に,神奈川県三浦半島で「広がる海と森/ふれあお う,友だちと自然」を合言葉に韓国とフィリピンからのゲストも招いて開催された。大きな自然のなかで生身の子どもたち同士がぶつかり合いながら,仲間と なって作り上げ,楽しむことを伝えようと尽力されてきた人々とともに,自分もあらねばと思い直している。

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