水疱に対する抗ヘルペスウイルス薬の有効性

水痘にかかったお母さんが,早く治る薬が欲しいと言われます。タミフルと同様に,一日でも早く治り,少しでも症状が軽ければ使いたいという方も多数おられるし,そのような方が製薬会社と医者のターゲットになっています。
アメリカの教科書で私が30年以上も使っているNelson Textbook of Pediatricsの2007年版には,アメリカではアシクロビルは効果と副作用から考え,子どもに使うのは容認できるとした上で,American Academy of Pediatricsは健康な子どもに一律に使わないよう勧告していると書いています。その理由は,
1)利益はたいしたことがない,
2)薬のコスト,
3)水痘は合併症のリスクが小さい,
です。ただし,13才以上は使え,との勧告です。
最近買った,オーストラリアのEvidence based pediatric infectious diseases 2007を見てみました。まず,ルティーンに使わないように勧告しています。健康な子どもでのRCTによれば,発熱は平均2日が1日に,水疱は2日が3日 に,水疱の数は500が336になること,合併症発生率は10% vs 13.5%で有意差なしと書いています。
さらに,4週間後のヘルペスウイルスに対する血清の抗体価が,投与群の方が少ないので,ヘルペスを押さえ込む免疫応答を阻害するのではないかという,1993年のアメリカ小児科学会感染症委員会の意見を紹介しています。
ちなみに日本の「小児疾患診療マニュアル2005」は「投与するかどうかについては意見が分かれている」です。
最後に,コクランライブラリーを見ましたところ,系統的レビューがありました。3つのRCTがあり,研究の質はJadad scaleで最上が1つ,その次が2つでした。発熱は1.1日(95%CI,-1.3 to -0.9)早く下がり,水疱の数は76個(95%CI,-145 to -8)少なくなりますが,新しい水疱ができなくなるまでの期間は意味のある差はありませんでした。また,このレビューでは合併症も,副作用も意味のある差 がありませんでした。前述の教科書は研究の一部を取り入れただけですので,コクランレビューが最も確かです。長期的な副作用の考察はないようですが,健康 な子どもへの使用は勧めていません。
ところで,水痘を機会にその原因ウイルスである帯状ヘルペスウイルスは人の身体に住み込みます。免疫が弱くなると突然頭部や胴体などの神経から帯状ヘル ペスウイルスが皮膚に出てきて「帯状ヘルペス」という病気になります。私も最近かかりましたが,これはとても痛くて辛い病気です。前述の水痘の後の免疫応 答が悪いことは,このウイルスを押さえ込む力が十分につかないため,将来の帯状ヘルペスを増加させる可能性があります。
ただ,免疫の弱い病気の子では死亡率が高く,13才以上では症状がきついので,使用した方が良いのです。
以上より,水痘への抗ウイルス剤は,13才以下の健康な子どもには使わない,というのが結論になるかと思います。

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