「肥満治療薬」マジンドール(商品名サノレックス)の危険性

07年12月「肥満治療薬」マジンドール(商品名サノレックス)の不正販売疑惑でメディカルサロングループ代表の医師とグループ取締役・店長が医師法違反 (無許可医業)容疑で逮捕された。この医師は医師免許がない店長に指示してメディカルサロンの女性客にサノレックスを販売していた。さらにサノレックスが 向精神薬にあたることからグループは麻薬及び向精神薬取締法違反(営利目的譲渡)容疑で家宅捜査を受けた。サノレックスとはどのような薬剤か。
サノレックスは「食欲抑制剤」の効能をうたっているが,交感神経興奮性アミンの一種で,主要な薬理学的作用はアンフェタミン類(覚醒剤)と類似しており,依存性と短期間での耐性形成が警告されている。
食欲中枢への直接作用と脳内でのアドレナリン,ドパミン,セロトニンの神経細胞による再取込み抑制の2つの作用機序により,消費エネルギー促進と食欲抑 制をもたらすとされる。適応は,「食事療法および運動療法の効果が不十分な高度肥満(肥満度が+70%以上またはBMI35以上)における食事療法および 運動療法の補助」とされているが,医師が認めれば適応外の処方も可能で,事実上無制限に処方ができる。服用は通常3カ月を限度としている。
副作用は,依存性,重大な副作用として肺高血圧,睡眠障害,嘔吐などがあり,緑内障や重症高血圧症,不安・抑うつ・異常興奮状態,薬物・アルコール依存 症,統合失調症などの精神障害,妊婦・授乳婦などが禁忌とされる。一般的に交感神経刺激剤は,過剰摂取で高血圧,頻脈,発熱などの交感神経過活動をきた し,しばしば中毒性精神病やせん妄を起こし,大発作もおこすことがあり,死亡もあり得る。向精神薬であること,しかも覚醒剤類似物質であることが正しく理 解されなければならない。
実際に2005年7月にインターネットで購入した中国製ダイエット食品天天素で十代の女性が死亡する事件があった。この天天素に含有されていたのが,マ ジンドールとやはり「肥満治療薬」をうたうシブトラミンだった(シブトラミン自体も致死的心室細動などの心血管系副作用が報告されている)。
BMI < 35の中等度肥満者に対しては,重篤な有害作用を誘発するおそれのある治療は行うべきでないとされている。最も効果的なダイエットは中等度でバランスのよ いカロリー制限であることも分かっている。今回サノレックスを購入した女性客はおもにダイエットが目的であったと思われるが,重度肥満だったかどうか不明 であり,有害作用で死亡もありうることが説明されていたとも思えない。メタボリックシンドローム・キャンペーンで需要が喚起されるおそれもあるが,有害作 用の重大さを考慮すれば,マジンドールは市場から追放されるべきである。

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