本「後期高齢者医療制度—高齢者からはじまる社会保障の崩壊」伊藤周平 著  平凡社新書

力作である。本書を読み進む内に著者の憤りが伝わってきて自分の血圧も上がるような気がした。
第1章は制度の仕組みが中心なので読んでいて少々気が重くなるが,じっくり読むと後期高齢者医療制度の問題点が見えてくる。第2章では老人保健制度が行 き詰まって介護保健制度が導入されたこと,小泉政権のもとで徹底した患者負担の増大が開始されたことがわかる。第3章で制度の問題点が具体的に解説され る。
後期高齢者医療制度は75歳以上の高齢者を別枠に放り込んだという意味で歴史的悪法である。悪法の意味は大きく2つに分かれる。一つ目は本来,公的保護 を受けるべき高齢者から様々な理由をつけて金をむしり取れるようになったこと。これは低所得者にも容赦がない。いわゆる高所得者に有利な「逆進性」の強い 制度である。しかも徴収は責任の不明確な広域連合に任されており,広域連合の判断で保険料は自由に値上げできる。2015年度には全国平均で一人当たり年 間8万5千円へと現在より約40%高くなると試算されている。
二つ目は医療サービスの提供抑制である。その手段は多岐にわたる。(1)保険証の取り上げ:保険料の滞納者からは保険証を取り上げて資格証明書を発行す る。この証明書は受診時窓口で一旦全額自己負担を強制するので,受診抑制に直結する。(2)医療費キャップ制の導入:広域連合からは保険料収入の枠内でし か医療費の給付がなされない(公的な補助制度がない)ので,自治体からの支援は期待できない。(3)後期高齢者診療科の新設:まだ本格的な運用はされてい ないが,後期高齢者には主治医制を導入し,1診療機関だけにかかるよう制限し医療費を丸め(定額)で支払うというもの。高血圧はA診療所で,呼吸器はB病 院で診てもらうというわけには行かなくなる。(4)強制退院:入院90日を超えると入院料が約6割にカットされ,しかも投薬・注射・検査なども込み(丸 め)になる。ひどいことに退院させると「退院調整加算」100点が支払われる。(5)リハビリの制限強化:リハビリ日数が最大で180日を超えた場合,リ ハビリの必要があっても月わずか13単位(4時間20分)しか認められなくなった。自宅などへの退院率が60%未満の回復期リハビリテーション病棟は1人 当り1日入院基本料が95点減額された。(6)療養病床の削減・廃止が計画されている。
続く第5章ではメタボ健診批判が展開されている。要するに「生活習慣病」を防げないのは個人の責任であるとして,医療サービスを受けられないようにしようとしているのである。
これらの制度改悪に対して私たちにできることは何だろうか? いっぱいある!ことが本書に展開されている。その一つは後期高齢者医療制度を撤廃させることであり,保険制度の限界を明らかにして公費方式への転換をはかることである。
怒りを共有するためにも本書のいちどくをお勧めする。

2009.4 Y