同一薬剤で100倍以上の薬価差?!

抗てんかん薬であるゾニサミドは1989年に承認され,エクセグランの商品名で販売されています。現在100 mg錠で38.5円,そのジェネリック薬には24.2円の薬価がついています。
2000年にパーキンソン病患者に併発したけいれん発作にゾニサミドを用いたところ,けいれん発作の消失とともにパーキンソン病症状の改善を認めたた め,2001年より抗パーキンソン病薬としての開発が進められ,2009年1月に『トレリーフ錠25 mg』として,「パーキンソン病(レボドパ含有製剤に他の抗パーキンソン病薬を使用しても十分に効果が得られなかった場合)」の効能・効果で承認されまし た。
このトレリーフ錠25 mgには1084.9円の薬価がつくことになり,同じゾニサミドの抗てんかん薬エクセグラン錠100 mgを同量で比較すると実に112.7倍,ジェネリックの179.3倍の薬価となっています。同じ化学物質であるゾニサミドが,市場でこんなに差がつくカ ラクリは何処にあるのでしょうか。
これまでゾニサミドは,抗てんかん剤として錠剤(100 mg)と散剤(20%)の剤形しかありませんでした。今回,パーキンソン病治療薬としての用法・用量は,成人1日1回25 mgの経口投与とされ,てんかんでの使用量の数分の一ですが,剤形を新しく25 mg錠剤とすることで,まったく別の新薬としての衣を着せて承認させたのでしょう。使用上の注意には次のことがしつこく書かれています。「ゾニサミドをて んかん(本剤の承認外効能・効果)の治療目的で投与する場合には,てんかんの効能・効果を有する製剤(エクセグラン等)を用法・用量どおりに投与するこ と」。
既存の薬剤で,長く使用している間に新たな効果がみつかることはよくあります。1953年に開発されたカルバマゼピンは,現在もテグレトールとして 100 mg薬価8.9円で使用されていますが,1962年には三叉神経痛の特効薬であることがわかり,また躁状態や統合失調症の興奮状態に対する気分安定剤とし ても効果が認められ,新たに開発されずとも同じ薬剤の薬効が評価され,適応範囲が拡大されています。副作用を注意しながら幅広い効能の中から適応を選ぶこ とができ,しかも経済的負担も少ないため,医者にとっても患者さんにとっても利益をもたらす,優れた薬剤といえます。
一方,抗てんかん薬ゾニサミドにおいては,抗パーキンソン薬としての効果(これ自体も別途,検討を要するが)がみつかったことで,これまでのような同一 薬剤の適応拡大としてではなく,まったく別の新薬として審査し薬価収載をしているようです。エクセグラン製剤に25 mg錠を加えて抗パーキンソン病への適応拡大なら薬価も大きく変わりませんし,日常診療では100 mg錠を4分の1に分割してパーキンソン患者に処方しても同じことと思うのですが,新しく名前を変えて25 mg錠にすることで,まったく同じ原料物質に100倍以上の薬価の差をつけた訳です。貴重な医療費をそんなにつぎ込まねばならないほどのものなのか,産地 偽装とでもいうべきなのか,現場感覚の常識としては解せないのですが,読者の皆さんはどう思われますか。

2009.4 I