インタール(クロモグリク酸)は小児の喘息に効かない!!

最近,イギリスのThoracic Society GuidelineとWHOのエッセンシャルドラッグのモデルリストから,インタール(クロモグリク酸:以下SCG)が外されていることを知りました。医 学雑誌Thoraxに掲載され,最終的にはコクランに掲載されたシステマティックレビュー「子どもの喘息に対する吸入クロモグリク酸」での効果なしの結果 を反映したもののようです。
しかし,このレビューには反論が出ています。そのStevens らの論文1)は大変難解でしたが,幸い,コクランレビューの’Feedback’にStevensらが批判点を要約して書いています。それによれば,
1) レビューの最も重要視された評価項目では4論文中3つでSCGの方が良いとなっているにもかかわらず,4歳までの子を対象とした研究だけの結論になっている。
2) 16の評価項目のうち8項目でSCG が有意に良く,逆はない。
など7項目にわたって批判しています。
レビューアーからは,すでにThoraxで反論しているから簡単に,全体的にはほとんどの評価項目で「効果がない」ものであったことと,強い刊行バイア ス(結果が良かったものが優先的に刊行されて,悪かったものが発表を拒否されること)があるを考慮した結論である,としています。
Stevensのコクラン批判の骨格をなしているのは,いくつの論文が「効果があり」としているかを強調することです。それが前述の1)の反論ともなっ ているのですが,コクランのレビューは対象人数も重要視しますので,それを反映する「メタアナリシス」の手法を採用しています。もっとも,1)の指摘で も,4論文中3論文がSCGの方が良い「傾向」があっただけで,有意差は示していません。
もちろん人数が多ければよいことでなく,研究の質が前提になります。コクランでは,以前は質の評価にJadad Scaleを使っていましたが,このレビューではそれぞれの論文が論文評価項目別に一覧表になっています。コクラン批判者は質の問題にはほとんど触れてい ません。
もう一つは,レビューアーが指摘する,刊行バイアスが重要です。たとえば,「咳点数」を見てみますと,ほとんどの論文は,それぞれでは有意差はないので すが,日本のShioda1970だけがダントツSCGが良いことになっているのです。多くの評価項目で,このShiodaの論文3)が全体を「効果あ り」の方に強く引っ張っています。他の多数の論文とかけ離れた結果が出ている論文には十分な注意が必要です。ですから,コクランはメタアナリシスの手法だ けでSCGが効果があるとせずに,明らかなバイアスがあればそれらを考慮して結論を出しているのです。.
コクランに対する批判は多項目にわたってなされていますが,基本的にはこれでSCGの効果が証明されていないことを覆していないと思われます。ちなみに反論者3人中2人がSCGの開発に携わった人です。

2009.5 H

文献
1) Steverns MT et al.Pharmaceutical Statistic 2007;6:123
2) Jhannes C van derWouden et al. Inhaled sodium cromoglycate for ashma in children. Cochrane Database of Systematic Reviews, Issue 2, 2009
3) Shioda H et al. Acta Allergologica 1970;25:221