妊娠中・授乳中の薬はどうすれば?

時々,妊娠中ですがかぜ薬を飲んでもよいですか?とか,こんな薬を飲んでいるのですが授乳は大丈夫ですか?などを聞かれることがあります。また妊婦がイン フルエンザにかかると,「タミフルやリレンザを使いましょう」と,WHO,CDC,もちろん産婦人科学会まで,動物実験の結果の危険性も無視した根拠のな いことを言い始めました。こうなりますと,他の薬も「妊娠・授乳に問題なし」と,どんどん使われる危険性があります。
薬自体が「かぜ薬」など不要な場合は簡単で,飲まなければよいわけです。授乳中や妊娠中にまで飲まなければならない薬は非常に少ないように思われます。 しかし,頭痛が強くて子育てに支障が出てくるとか,肺炎で抗生物質をどうするかなどはきちんと判断しなければならないと思われます。皆さんはその様な時ど う判断されますか?難しいですね。
添付文書にはタミフルと同様「効果がリスクを上回ると判断される場合は使用」などと書かれています。では,何を根拠に判断するのでしょうか?その様なと きに,大変役に立つのが,医薬品・治療研究会の編訳「妊娠中の投薬とそのリスク」(第4次改訂版)です。この本は,オーストラリアの医薬品評価委員会先天 異常部会による評価基準によるものです。妊娠中のリスクを7つのカテゴリーに分類して,大変安全性の高いAから,明らかに永久的な障害を引き起こすリスク の高いXまでに分類していますので,大変使いやすい本です。例えば,鎮痛解熱剤のアセトアミノフェンはAで,アスピリンはC(胎児や新生児に有害作用を引 き起こすことが疑われる)です。この本は医師や薬剤師,看護師さんも必携の本です。
この本は大変良いのですが,1999年までのデータですし,妊娠中のだけで,授乳中のことが書いていません。最近,Thomas W.Hale 著「Medications and Mother’s Milk」13th ed. 2008 Hale Publishingという本を買いました。この本は,妊娠中の薬を5つ(ABCDX)のカテゴリーに分けると共に,授乳中もsafest, safer, moderately safe, possibly hazardous, contraindicated の5つのカテゴリーに分けています。この本は,前述のオーストラリアの本より少々厳しく評価しているように思われます。例えば,抗生物質エリスロマイシン はこの本ではB:safer,ですが,オーストラリア本ではAとなっています。また,授乳中にこの薬を飲むと,子どもの幽門狭窄が増えることが分かってき たとの記述があります。クラリスロマイシンは妊娠中がCですが,授乳中はsafestとなっています。
もちろん,後者は民間の個人的な著者の本ですので,オーストラリア政府の様に信頼できるかどうかは不明ですが,かなり役に立つ本のように思います。ま た,英語版ですが,薬とカテゴリーがわかれば,文章がわからなくてもオーケーですので,この本も是非備えて欲しいものです。

2009.6 H