本「子どもの最貧国・日本」〜学力・心身・社会におよぶ諸影響〜 山野良一著(2009年7月)

「子どもの最貧国・日本」
〜学力・心身・社会におよぶ諸影響〜
山野良一 著 光文社新書 (820円+税)

以前ご紹介した「子どもの貧困」の著者は厚生労働省政策研究機関の研究員でしたが,本書の著者は15年以上児童相談所で,困窮した生活を強いられている 子どもたち・家族に関わっている児童福祉司です。2005年から’07年にかけては米国ワシントン大学ソーシャルワーク学部修士課程に在籍して社会福祉を 学びながら,日本の児童相談所にあたる児童保護局やスラム地域の学童保育所などでインターンとして実際に米国の子どもや家族に接して来られました。日本や 米国での著者個人の経験だけでなく,米国を中心とした海外の(日本にはごく少ない)貧困に関する理論やデータ研究に依拠して,「自然あるいは神によって作 られたものではない」「貧困がどんな影響を,またどのようにして,子供たちや家族に影響をあたえるか」を第一テーマとして書かれています。

目次を列記します。
<概論>1章 貧困化の著しい日本の子どもたち 2章 なぜ子どもたちは貧困に陥ったのか?
<現実>3章 学力格差と児童虐待 4章 脳・身体・こころへの影響 5章 貧困が子どもたちを蝕むプロセス
<対策>6章 生活保護と児童養護施設はいま? 7章 各国の貧困対策に学ぶ
本書が眼に止まった時,「貧困」に「最」が付いていることに「なぜ?」「そんなにヒドイの?」と何かプライドを傷つけられたように感じたことを「認識不足だった」と今は恥ずかしく思っています。
ユニセフ・イノセント・リサーチセンターのレポート(’05年)「子ども貧困リーグ」によれば,’00年の時点で日本の子どもの貧困率は14.3%(7 人に1人)。その後の非正規・派遣労働者数の増大を考慮に入れると,貧困率の上昇は必至と考えられます。OECD(経済協力開発機構)’05年報告では, 日本のひとり親家庭の貧困率は主要11ヶ国の中では第1位,OECD26ヶ国全体でもトルコに次いで第2位です。(日本のひとり親たちの就労率はイギリ ス・イタリア・アメリカに比べてかなり高いのにも関わらず,年間の就労収入は2003年の調査では166万円です。)
また生活保護制度を利用させないようにするために,福祉事務所が’80年代から全国的に導入した「水際作戦」の結果,生活保護における世代別利用者数の 推移では,0〜19歳の子どもたちとその親年齢にあたる人々が顕著に減少しており,母子世帯の生活保護率が22.5%(’85年)から13.1%(’05 年)に下がり,この作戦の最大の犠牲者は母子世帯の子どもたちだったと述べられています。

一方ヨーロッパでは,貧困ラインを所得の中央値の50%ではなく,「60%にするべき」とか,貧困を経済的な状況だけでなく,社会制度や社会資源から個 人や家族が遠ざけられている「社会的排除」と考えるべきとの合意がなされて,各国の子どもの貧困に対する政策が紹介されています。
最後は,米国児童保護局のソーシャルワーカー粟津美穂氏の言葉で締めくくられています。
「格差を改善せず,弱者を置き去りにすることから,いつの時代にも,虐待や暴力は始まる。人々が平等で,社会資源や支援の十分あるところで子どもが虐待されることはまれだ。」

「日本政府は社会保障を解体させている」と怒っていても,事態の内実・酷さを知っているようで知らない,知ろうと努力しないと安易には知れない状況があ ります。また身内(自分の国)は良いように思いたいと心が動くもの?否「動かされている」などなど,思い巡らせました。やっぱり8月1日,2日に横浜で開 催される「平和と民主主義をめざす全国交歓会 第39回大会」に参加して,シンポジウム「社会保障解体NO!必要な人に必要な公的保障を!」や「医療・福祉崩壊と闘う」と題する討議の場に参加しなくて はと,考えさせられた書物でした。

2009.7 I