いちどくをこの本『隠された被曝』(NEWS No.432 p07)

『隠された被曝』
矢ヶ崎克馬 著/新日本出版 1200円/2010年7月25日発行

矢ヶ崎氏は琉球大学名誉教授で理学博士の方です。

この本のテーマである「隠された被曝」とは,「内部被曝」のことです。私たちはイラクでのウラニウム兵器問題を通じて,内部被爆問題に深く関わるようになってきました。この本の著者も,私が参加している「ウラニウム兵器禁止条約キャンペーン(UWBAN)」の小山事務局長とのメールをきっかけに,UWBANの産まれた直接の契機であるイラク民衆法廷を通じて,「内部被曝」問題に目覚めた,と書かれています。そのイラク民衆法廷以後の,著者の内部被曝に関する研究の成果を,一般の方にもわかるようにとても平易に書かれたのがこの本です。

この本は,主に広島・長崎の原爆被爆者の被爆認定を求める裁判で役立つことを目的に書かれています。しかし,この本は全体的に内部被曝の重要性を論証した本となっており,福島原発事故を考える上でとても重要な内容を含んでいます。

まず,国際放射線防護委員会ICRPが設立されたのは,広島・長崎への原爆投下の後1950年ですが,1946年に設立されたアメリカ合衆国放射線防護委員会の陣容をそのままに並行設置したものでした。いわば原爆を所有する唯一の国の,原子力政策を進めるための存在だったのです。

そして当然,核武装や「平和利用」である原子力発電を推進するために,放射線被曝の障害性は低いものだと評価することがICRPの任務となります。その手段が,内部被曝の特殊性を無視して,

「放射線が与えたエネルギー(吸収エネルギー)だけで被曝を評価する体系です。その特徴は,放射線が作用する具体的なメカニズムを一切捨象して,単純化・平均化がなされることです。」

と著者は分析します。この様な基本的視点に基づき,著者は核分裂生成原子,内部被曝の恐ろしさ,放射線被曝の実相,などを究明して行きます。

この本では,とても難しい原子物理学の話を,私のように物理で某大学入試を失敗したような物理おんちでも,ある程度はわかるように解説された上で,内部被曝というものは,とても微量の放射性物質が体内に入ることで,とても大きな障害を起こすことを説明しています。

著者は物理学者ですから,人体にどのような被害をもたらしているかの具体的な例は、ほとんど出てきません。著者と違い,物理学はダメだが医学的知識は持っている医問研の知識を総動員して,この著者の指摘してくれた「内部被曝」の健康障害をまとめるのが私たちの役割かと思っています。

ともかく,原発事故の被害を考える方々には必須の本と思います。

はやし小児科 林