くすりのコラムNo.223(NEWS No.432 p08)

インフルエンザ・ワクチンが欠席率を減らしたという嘘

― 菅谷氏らの論文批判

2011年6月16日(木)読売新聞に,慶大研究チームにより「効果が明確でない」として94年に中止されたインフルエンザ・ワクチンの学童集団予防接種が,実際には欠席率や学級閉鎖日数の減少に有効だったことが分かったと報道されました。この元論文(Kawai S, Sugaya NらInfluenza Vaccination of Schoolchildren and Influenza Outbreaks in a School. Clinical Infectious Diseases 2011;53(2):130–136.)を批判的に検討してみます。

まず学級閉鎖の率ですが,これはインフルエンザの流行と相関するは限りません,そこでインフルエンザ流行期の欠席率に集中して議論することにします。図1はワクチン接種率と欠席率の関係をグラフにしたもので,全く関係がないことが分かります。

では菅谷氏らは,どうしたかというと,定点観測ピーク値が20例/週/施設未満の年を勝手に削除してしまいました。すると図2のようになり,見事に負の相関(接種率が高いと欠席が少ないという意味)を示します。

彼らがなぜ20例/週/施設未満の年を削除したかというと,流行の少ない年にはワクチン効果が現れにくいからとしています。医学研究では,このような勝手な操作をすることが許されているのでしょうか?いいえ違います。この操作は悪質です。

百歩譲って,流行の多い年にだけインフルエンザ・ワクチンの効果が高いと仮定しましょう。では一体どうやって流行の多少を予測するのでしょうか?そんなことができるはずがありません。ですから流行した年も,していない年も全部含めて分析するのが公平な立場です。

図3は定点観測ピーク値と全都の出席停止数との関係です。非常にきれいな正の相関(r = 0.76, P = 0.004)を示します。

つまりピーク値が低い年のデータも信用できるのです。ですから,これらの年を削除するのは不当な行為です。

図4は当該校ワクチン接種率と全都のインフルエンザ出席停止数ですが,何と正の相関(ワクチン接種率が高いほど出席停止数が多い)を示します。これは流行すると接種率が上がることを示しています。

総じて,これらのデータからワクチン接種が有効であったと結論するのは余りにも強引であり,根拠がないと断定できます。

帝塚山大学 柳