いちどくをこの本『フクシマの真実と内部被ばく』(NEWS No.451 p06)

小野俊一著/七桃舎/2013年1月21日発行/1500円

著者は現在熊本市で内科医院をされている方ですが、東大精密機械工学科を卒業して東京電力に入社、本店の原子力技術安全グループに配属され、原発の安全性を実際に見てきた方です。

その仕事の中で、原発はあまにり未解決な安全問題だらけなことを知り、それを少しでもなくそうと努力したが、東電の責任をとらない重役達に失望して退社しています。その間の、安全問題に関する会社のひどい対応がいくつか紹介されています。

例えば「地震が止まったあとに冷却が失敗すると事故になるのではないか」という、まさに今回の福島原発事故のことが会社のQ&Aで質問されていたようです。著者は「この通りなんですけど、どう答えるんでしょう?」と、聞くと上司は「これは、話をそらすんだよ、原子炉は五重の壁でできています。・・」「それは答えになっていないじゃないか、といわれますよ・・」「そう言われたら、同じことを繰り返す。わあわあ言っている間に時間になるよ。平行線にもちこめばいいんだ・・」という具合です。

この本の本当に恐い所は、現在の原発の状況を書いているところです。チェルノブイリ事故との比較で、とても重要ですが、マスコミなどがほとんど書いていないことです。チェルノブイリの場合は、出力100万キロワット、福島では爆発した4基で300万キロワットです。また、チェルノブイリの原発は最新鋭で運転開始3年後、福島は運転開始40年でかつ使用済み核燃料まであることです。

放出された放射線量がヨウ素16万テラベクレル、セシウム1万5千テラベルレルとされていますが、これはあの爆発から推定してこの程度で済むはずがなく、政府・東電の発表はとんでもない過小評価だとしています。

その他、著者は事故後の経過を逐次追いながら、政府・東電がいかにうそをついて、事故を小さく被曝を少なくみせかけているかを明らかにしています。

降下したセシウム137の降下量は、事故の起こった3月で、平方メートル当り、東京8100ベクレル(大気核実験最盛期の10倍、茨城で17000ベクレル(同、20倍)福島で334万ベクレル(同、1万倍)だったのです。現在、明らかになった子どもの甲状腺がんの多発もこれから考えて当然とも思えます。

これらの内容がこれほど明確に書けるのは、著者が東電退社後、熊本大学医学部を卒業し、内科医をしており、いわゆる「原発村」とは一才関わりがなく、かつ文科省や厚労省から研究費をもらっているわけでもないような、生活をしているからだと思いました。

最後の、内部被曝の問題は肥田舜太郎氏の業績を中心に解説しています。

私は、著者に医問研発行の「低線量・内部被曝」の本と、感想を書いて送りましたが、今のところ返事をいただいません。

今後も連帯してゆければ頼もしい方だと思っています。

はやし小児科 林