甲状腺がん多発を隠す「専門家の理屈」(NEWS No.451 p08)

福島の子どもの検診で10人の甲状腺がんが発見。それに対する「専門家」のいいわけを検証。

<頻度の問題>

小児の甲状腺がんの有病率は、大人と違って極めてまれであり、多くの国で100万に何人という単位です。しかし、この有病率は検診での発見率とは別の数字だと考えなければなりません。岡山大学の津田教授は、両者の違いを考慮しても、3人のすでに手術をしてしまったがんの頻度で通常の11.24倍、それに7人の細胞診でがんと診断された子どもを加え10名とすると37.48倍と計算しています。有意差検定では、10例で3.9×10のマイナス11乗%有意という、通常では全くあり得ない差になります。

さらに、2次検診に回された118人のうち細胞診までしたのは76人にすぎませんので、あと42人のからも同様の比率で発見されると、37.48×76/42倍=67.46倍になります。

<見つかったのは「潜在しているガン」にすぎない>

このように、頻度ではごまかされなくなると感じたのか、「専門家」たちは、小さいままでずーと過ごす「潜在がん」が見つかっただけとも言います。甲状腺がんが「潜在」していることが多いというのは成人の話です。ずーと超音波で検診してきたはずの、ベラルーシでの調査では検査時0-9才では、甲状腺がんの発生は一時とても高い頻度になりましたが、16年後には事故以前ほどに減少しています(本ニュース13年1号山本論文)。さらに、今回の福島での発見率は、チェルノブイリ事故5年後(1991年)から96年までの甲状腺ガンが急増した時期に当の山下俊一氏らが行なった検診のウクライナでの「発見率」の1・5倍、ベラルーシ・モギリョフでの「発見率」の4倍にも上るのです。

<エコーの性能があがったから多くを見つけている>

確かにエコーの発展は目を見張るものがあります。しかし、今回のスクリーニングでも、5.1mm以上の結節と20.1mm以上ののう胞を見つけ出すもので、1-2mmのものではありません。また、発見されたガンのサイズも発表されていません。

<一年もたっていないのにガンが発生するはずがない>

これは相当な説得力を持っているかのようです。チェルノブイリ事故後も翌年から少し増加しています。しかし、神経芽細胞腫という子どもの病気は生後1才未満で発見される場合も多いのです。100歩ゆずって1年でそれほど大きくならないのなら、高頻度で見つかった原因を検索すべきで、福島原発事故との関連を否定するだけでは「専門家」とは言えないのです。

<北海道で、のう胞と硬結が福島と同様多数発見>

これは、福島で甲状腺被害がなかったことを証明するわけでもなんでもありません。北海道で、福島と同程度甲状がんが発見されていれば、北海道の高頻度の原因を考えなければならないのであった、福島が被害がないとは言えないのです。同様に、のう胞や硬結が同程度見つかったのなら、北海道も福島と似た被曝をしているのか、または他に原因があるのかを見極めなければならないのであって、福島の被害を否定するものではないのです。

以上、津田教授や山本英彦氏の意見を踏まえて、私なりにまとめてみました。

はやし小児科 林