いちどくを この本『生活保護-知られざる恐怖の現場』(NEWS No.457 p07)

『生活保護-知られざる恐怖の現場』
今野晴貴・著
ちくま新書 800円+税

生活保護を受給しようとして福祉事務所の審査を通過するためには、車や持ち家、僅かな蓄えすら処分し、丸裸になる必要がある。その上に、冠婚葬祭費や交際費も出せないくらいに「真正の貧困者」となることが要求される。その結果、当人の生活や健康状態、精神状態は荒廃して、就労や社会参加は遠のき、社会の関係性までも破壊されて、本来の趣旨である自立は不可能となってしまう。

大阪市天王寺区が保護受給者の素行調査を行っていた。行政による違法行為だが、大阪市は「適正化チーム」(不正受給調査専任チーム)のために1億円以上もの予算を計上している(2013年度)。不正受給は少額で悪意の少ない事例が多く、保護費全体の0.5%未満だ。一方、日本では最低生活費以下の収入の人が保護受給する捕捉率は、2割に満たず、英独仏などの3分の1以下であり、不正受給より給付されないことがはるかに問題だ。

生活保護は、憲法25条が定める「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」(生存権)を保障する制度で、「最後の安全網(セーフティネット)」と呼ばれる。しかし、自民党政府は8月から保護費を2年半かけて8.3%減らした。さらに、政府は先の通常国会に(1)申請時に資産や収入に関する書類の提出を義務付け(2)親族の扶養義務を強化-などの抑制策を盛り込んだ生活保護法「改正」案を提出した。これは、自治体が窓口で申請を拒む違法行為である水際作戦などを合法化し、憲法25条を冒すものだ。前国会では審議未了・廃案となったが、再提出と成立が狙われている。

保護申請しようとしたシングルマザーに申請用紙を渡さなかった舞鶴市の事例や、ここ10年ほどで3人の餓死者を出した北九州市の水際作戦などの行政による違法行為の事例が列挙される。生活保護法の精神が現場で捻じ曲げられ、「最後のセーフティネット」の役割を果たせていない。さらに、現場のケースワーカー(CW)が受給者に暴言を吐いたり、プライバシーに過度に介入したり、「貧困ビジネス」である無料低額宿泊所に押しこむケースなどが紹介される。CWは保護の開始と打切りに関する権限を有し、受給者に対して絶対的に優位で、パワハラが生じてくる。ただし、CWの暴走は、人員不足、専門性欠落という要因が大きい。予算削減や過酷な労働環境でも受給者に向き合うCWもいることはおさえたい。

著者は現行の生活保護制度を守るだけではなく、例えば、現行法下でも可能な「医療扶助のみの単給」の実施、最低賃金の引上げなどを含むナショナル・ミニマムの実現など、生活保障の必要性を提起する。生活保護を切り下げると、最低賃金などとの連動を介して、人間破壊的労働と低福祉の現状は温存され、社会は一層貧困化する。最低生活保障としての生活保護の本来的運用と、生活が可能となる労働政策、生活保護以外のセーフティネットの拡充で貧困をなくすことこそが求められる。ぜひお読みいただきたい。

(いわくら病院 梅田)