ディオバン問題、その後 厚労省、検討委員会の「中間とりまとめ」は、本質的問題を隠している(NEWS No.459 p07)

ノバルティスファーマのディオバンが降圧作用に加え、脳梗塞などの高血圧の合併症を防ぐとする、京都府立・東京慈恵・滋賀各医大、千葉大・名古屋大などの研究論文が捏造であったことは、9月号でお伝えしました。
その後、10月8日に厚労省「高血圧治療薬の臨床研究事案に関する検討委員会」(以下、検討委員会)が「高血圧症治療薬の臨床研究事案を踏まえた対応及び再発防止策について(中間とりまとめ)」を出しました。

もちろんですが、この事件の本質的な問題には踏み込まず、NHKのクローズアップ現代でまとめたような、臨床試験に関して一定の縛りが要るとの方向が出されたにすぎません。

9月号で書きましたように、欧米でも、特に中・軽症の高血圧での、合併症を防ぐことを証明したデータは少なく(死亡率を下げるデータはない)ましてや心疾患が欧米の1/3、脳卒中は1.5倍の日本ではディオパンだけが唯一合併症を防ぐ事が「証明できていた」のです。
そのデータが捏造だったのですから、ディオパン以外の全ての降圧剤は合併症を予防できないことが、改めて明らかになったわけです。

検討委員会も、「はじめに」では「高血圧症治療の目的は、血圧を下げることそのものにあるというよりも、将来的な虚血性心疾患や脳卒中などの重篤な疾病の発症を防ぐことにあり、……」と書いています。
しかし、この大切なことは、その後の「検討」から消えてゆきます。

今回捏造された研究の課題は、その高血圧の合併症の予防にあったのですが、「自社製品の販売戦力という動期付けが認められ」たので「特定の研究課題の解明に向けられたものとは言えない」としています。
しかし、今回の捏造論文は、まさに降圧剤がその真の目的である高血圧の合併症をへらすことができるとした論文なのです。
他の降圧剤がその証明ができていないからこそ、それができるとのデータ作りが欲しかったのです。
それは確かに販売戦力という動機だったのですが、同時に降圧剤の本当の目標をねらった研究だったのです。しかし、他の降圧剤同様、それができなかったからデータを捏造したわけです。

ですから、検討委員会はまず降圧剤は合併症を防げないという問題に答えなければならなかったのです。

さらに、検討委員会は、製薬会社の販売戦力という動機付けによる研究は、「必要でない臨床研究につながる可能性があり」(確かにそうです)としているのですから、そのような研究を厳しく統制し、生データまで公開すべきです。ところが、その後の議論では、「利益相反」(研究対象の薬などと試験実施者の間に利害関係があるかどうか)や、データ操作、被験者保護などでもほとんど実効性のある改善策を出していないように思われます。

製薬企業が販売促進のための動機で研究をしているのだとすれば、今回のようなあからさまな捏造だけでなく、さまざまな捏造ができないような規制が必要です。

公的資金による研究で、少なくとも利益相反のある人は、研究グループの少数でなければならないし、責任者はその薬や医療機器と利害関係が全くない立場の人でなければなりません。

さらに、これらの研究が正しいかどうか、多くの研究者がアクセスできる形でデータが公開されるべきです。
なぜなら、日本の医学会は、ほとんどの「研究者」が有形だけでなく無形の利害関係を、学会や政府機関を通じ、製薬大企業や医療機器産業との間に持っているからです。

この問題を通じ、高血圧などの「過剰診断」と「過剰治療」の問題、そして研究者の利益相反の問題が広く国民に認識されるようにしなければならないと思います。

(はやし小児科 林)