医療トピックス 精神障害の過剰診断と過剰治療をもたらすDSM-5は使うな!(NEWS No.460 p02)

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世界的に精神障害の診断マニュアルとして研究や臨床で使用されているDSMの最新版であるDSM-5(精神疾患の診断と統計マニュアル第5版)が2013年5月に発表された。
近日中に日本語訳が出版されるはずである。
作成段階から既に精神障害の診断インフレがハイパーインフレに変わりかねないと批判されていたが、内容を概観するとまさに批判が的を射ていると言える。

DSM-5はそれ以前の版とは診断システムや診断カテゴリーが甚だしく変更され、DSM-Ⅳ(精神疾患の診断と統計マニュアル第4版)の改訂版というよりは全く新しい独自の診断基準と言える。
1994年にDSM-Ⅳが出てから、注意欠陥/多動性障害(AD/HD)の率が3倍に、自閉症の率はほぼ40倍に、小児期の双極性障害の率が40倍になったとされ、これを以て診断のインフレと言われる。
背景には製薬企業のマーケティング戦略が作用している。
DSM-5は診断インフレをさらに拡大すると危惧されている。
以下、変更点の例を挙げて検討する。

  1. 重篤な気分調節不全障害(新規):子どもの癇癪を精神障害にするもの。100%近い子どもが該当してしまう。
  2. 大うつ病性障害の診断に際して死別反応を除外しなくなった(変更)。悲嘆が医療化されると、死別を乗り越えていく自然な過程が妨げられ、不必要な薬物療法を招く。
  3. 加齢に伴う生理的な物忘れが軽度神経認知障害(新規)と診断される。認知症でない人を障害に仕立てても不要な医療化を招くだけだ。
  4. 1週間に1度の大食いが3ヶ月続くだでむちゃ食い障害(正規化)という精神障害にされる。週1回の食事会で羽目を外すこともうかつにはできなくなる。

DSM-5に採用されなかったが、流行に需要があるのが「精神病リスク障害」だ。
子どもが大人になる時にあまりにも多くの理解しがたいことがあまりにもたくさん起こるが、精神病に対する早期介入としての早期診断や有効な介入法はいずれも存在せず、仮に正式に使用されたら、多くの子どもたちが不必要な薬物療法を受けて、肥満や早死に追い込まれる恐れがある。

今日では向精神薬は製薬企業の最大級のドル箱である。
マーケティング戦略と病気づくり戦略で市場拡大を果たして味をしめた製薬企業が、正常とみなすべき多くの人たちを医療化してさらに市場拡大しようとする流れでDSM-5が登場した。しかし、生きていれば避けられない日々の問題は自然の回復力と時間の治癒力によって解決するのが最適なのだ。

精神障害のもうひとつの国際的な診断基準であるICD(国際疾病分類)Fコード(精神及び行動の障害)の近日中に発行されるはずの次の版(1CD-11)に対するDSM-5の悪影響が危惧されるが、日常での正常な行動や感情をくれぐれも精神障害に仕立て上げずに、自己回復力と時間の治癒力に依拠して、過剰な医療化は戒めなければならないという原則から言えば、DSM-5は使ってはいけない。

(いわくら病院 梅田)