福島甲状腺結節、がん;がんの大きさの分析、被ばく線量との相関関係に関する検討(NEWS No.461 p03)

先月号に続き、福島の甲状腺がんについて、今号では放射線量と結節の関係を分析した。

(3)放射線量と甲状腺がん、結節との関係の分析

チェルノブイリの小児甲状腺がんについても当初スクリーニング効果説が語られてきた。
1990年から国際協力によるチェルノブイリでの甲状腺がん検診が始まり、1991年にはウクライナのPrisyazhiukが、1992年にはベラルーシのKazakov やWHOのBaverstockらが甲状腺がんの多発について発表した。
BeralやShigematsuらにより即座に反論がなされた。主な論調は、発見が早すぎる、発見数はわかるが頻度が不明、放射線量との関係が不明、スクリーニングによる発見ではないかといったものであった。
が、その後の著しい発見頻度の増加発表とともに、線量とがんの関係を示すいくつかの論文が発表され、甲状腺がんと放射線の関係は、誰もが認めざるを得ないものとなった。UNSCEARは2000年報告で小児甲状腺がんは放射線被ばくに起因すると認めざるを得なかったが、決定的根拠となったのは線量に応じてがん頻度増加が見られたといういくつかの論文であった。

甲状腺結節とがんのリスクについてもたとえばUptodateという教科書によると、

  • スクリーニングで見つかるような小さなものも含めて、すべてのタイプと大きさの甲状腺結節は、放射線被ばくで増加する

と記載されている。

結節と甲状腺がんの関係についても、例えばチェルノブイリについて、長崎大の林田は2012年、笹川プロジェクトで1991年から2000年までにチェルノブイリで結節のあった160名と、なかったコントロール群160名を比べ、結節群では疑いも含め甲状腺がん症例が15名、コントロール群では0名と有意差を認めたと発表している。

福島では、公式には放射線による影響はふたをされ、放射線量とがん症例を結び付ける検討すら公表されていない。検討するために必要なデータの多くは隠されている。そこで、直接がんと線量の関係を示すものではないが、結節の頻度(5mm以下も含む)と線量の関係について検討した。

方法;単回帰分析を用いて2011年、2012年度の各市町村について以下を検討した。
A.県内2200か所での土壌131I、134Cs、137Cs線量の各市町村での平均値、
B.4月29日に行った空間線量での各市町村単位での空間線量の平均値
C.文科省が4月5-6日に実施した校庭土壌線量の各市町村での平均値と最大値
の各線量(説明変数)に応じて、市町村ごとの結節の頻度(目的変数)との間で直線的な相関関係が存在するかを検討した。

各種説明変数と結節%結節%校庭空間線量μ Sx/hr土壌ヨード 131Bq/㎡各種説明変数と結節%結節%校庭空間線量μ Sx/hr土壌ヨード 131Bq/㎡
川保町1.22.599.31E+02福島市0.9772.379.77E+02
浪江町2.0621.57.13E+03二本松市1.082.786.28E+02
飯舘村2.2310.72.18E+03本宮市0.9673.023.05E+02
南相馬市1.31.038.20E+02大玉村1.112.125.10E+02
伊達市0.731.051.30E+03郡山市1.471.853.83E+02
田村市0.690.585.02E+02桑折町1.161.538.65E+02
広野町0.881.81.59E+03国見町1.611.294.83E+02
樽葉町0.925.13E+03天栄村1.051.552.55E+02
富岡町0.783.20E+04白河市1.11.192.55E+02
川内村1.870.594.08E+02西郷村1.381.519.50E+01
大熊町1.043.20E+04泉崎村1.30.842.70E+02
双葉町0.663.10E+04三春町1.21.235.24E+02

結果;A,Bの各パラメーターについて、線量と結節の間に有意な関係を得ることはできなかった。
Cについては、各市町村毎の校庭土壌線量の平均値、市町村の最大値をパラメーターにした時、いずれでも結節頻度と放射線濃度の間に有意な相関関係が認められた。

なぜCでは結節線量関係が示され、A,Bでは示されなかったかを分析した。
図で見るごとく、校庭土壌濃度測定値が、早期避難地域である双葉町、大住町、富岡町、楢葉町では測定できなかった。
これら地域はいち早く全地域避難が実施された地域であり、もっとも環境被ばく放射線量が多かったとされる3月15日前に避難が完了していた。
そのため環境線量が甲状腺結節の発生に与える影響評価は不安定であると考えると、むしろ、ない方が正確であると判断できる。
土壌ヨードやセシウムなど、その他の説明変数についても上記4町を除いたデータで検討する方が、甲状腺への影響が考えやすいと思いつき、再検討を実施した。すると、土壌131ヨード、土壌セシウム134,137、空間線量のいずれでも結節頻度との間で放射線量との有意な関連が認められた。

なお、回帰分析の検討にはExcelのマクロソフトであるStatcelを用いた。

ここでは校庭土壌との結節の関係を示す。つまり、校庭土壌の放射線量の量に応じて、市町村小児の結節頻度が増加する、その結論が間違っている確率は0.0000157以下という結果だった。

データ数25
重相関係数R0.750184
法定係数R20.562775
自由度修正済み決定係数0.543766
Y評価値の標準誤差0.047757
ダービン・ワトソン比1.67146

分散分析表

要因偏差平方和自由度不偏分散F値P値F(0.95)
回帰0.063962810.06396329.604541.57E-054.279344
残差0.0496932230.002161
0.11365624

回帰係数の有意性の検定と信頼区間

回帰係数標準誤差標準回帰係数P値t(0.975)95%下限95%上限
定数項0.06237760.0114440.0623785.4504461.54E-052.0686580.0387028650.086052352
校庭の空間線量 2011年4月5-6日0.01158450.0020740.7945565.5867211.1E-052.0686580.0072949760.01587402

つまり、福島の0-18歳の人たちの結節は、放射線量に応じて増加しているということである。

同じパラメーターを用いて、5mm以上の結節陽性率、がんとの間で回帰分析を試みたが、手持ちのデータでは有意の相関は得られなかった。

3月当時の初期個人被ばく線量の厳密な評価、がん発見者を軸とした症例対照研究の実施など、意図的にサボタージュされている事態に憤るとともに、関係医療人は、何の根拠もないスクリーニング効果説に固執するのではなく、多発の現状を放置せずに、校区とがんの分析など、放射線量との相関関係の検討を急ぐべきであるし、データを公表すべきである。
福島の子どもたちはますます置き去りにされ、低線量被ばく
におびえ続けなければならない。
予後はよいとされるが進行の早い小児甲状腺がんの治療が意図的にサボタージュされている現状を速やかに打開するために市民、医療人一丸とならなければならない。

(大阪赤十字病院救急部 山本)