医療トピックス ヒトの健康にとって「歩く」重要性を大規模研究で実証(NEWS No.462 p05)

NAVIGATOR試験サブ研究解析

糖尿病や耐糖能に障害のある患者で「運動療法」が推奨されていますが、運動療法が心血管イベントを減少させることを、大規模なコホート研究で実証した研究論文が「ランセット」誌電子版に掲載されました(Lancet online. December 20, 2013)。

この研究はNAVIGATOR試験と呼ばれる二重遮蔽ランダム化比較臨床試験においてサブ研究解析を行ったものです。
NAVIGATOR試験は、血糖降下剤ナテグリニドと血圧降下剤バルサルタンがリスクをもつ耐糖能障害患者で実際に心血管イベントを抑制するかどうかを5年間投与でプラセボと比較した介入試験です(ナテグリニドとの比較論文: Lancet. 2010; 362(16): 1463-76、バルサルタンとの比較論文: Lancet. 2010; 362(16): 1477-90)。

このNAVIGATOR試験で、血糖降下剤ナテグリニドと血圧降下剤バルサルタンは両剤とも心血管イベントの抑制はまったく見られませんでした。

しかしこの研究では日常活動と心血管イベント発症との関係についての検討も同時に行っていました。今回の論文は歩行計を用いて記録した歩行活動の程度と血管イベント発症との関係について解析した結果です。

日常の歩行活動と12か月後の歩行活動の変化のいずれでも、血管イベント発症との間に逆の相関関係がみられました。歩行活動の変化では、歩数を2000歩/日増加させると心血管リスクは8%低下し、倍の4000歩/日増加させると心血管リスクは倍の16%の低下がみられたのです。

著者たちは、かなり欠測値が増えているが、これまでのような患者の日常活動の主観的な評価でなく、歩行計での記録という客観的な計測値をもとにデータが得られた意義は大きいと述べています。

この成績は糖尿病や耐糖能に障害がある患者でのデータなので、健康なヒトでは歩くことによって得られる影響はこれより小さいかもしれません。しかし、サルがヒトに進化したのには直立歩行の果たす役割が大きかったとされ、「歩く」ことはヒトにとって最も基本的な日常活動であるだけに、今回の成績には納得されるものがあります。

また、本体のNAVIGATOR試験では、血糖降下剤ナテグリニドと血圧降下剤バルサルタンの両剤とも心血管イベントを抑制できていないのに、歩行活動が心血管イベントを低下させているのも注目されます。
糖尿病治療剤は血糖降下作用で販売承認されますが、心血管イベントなどの本来の有効性が確認されず用いられています。
使用経験も少なく副作用もよく確認されていない高価な新薬が席巻している現状を、保健的な見地から見直すのに良い機会となるデータでもあると思います。

(薬剤師・寺岡章雄)