近畿小児科学会 発表演題のご紹介(NEWS No.462 p06)

By: Seth Sawyers

3月9日奈良市内で開催予定の近畿小児科学会に今年は2演題を発表します。

昨年、医問研では「低線量放射線被曝の危険性」とまとめて、医療被曝に的をしぼった3演題と「福島避難者こども健康相談会の報告」を口演しました。
今年はチェルノブイリ原発事故による放射能汚染を蒙ったベラルーシ(ミンスクとゴメリ)やドイツ(フランクフルト)での会議への参加時期と重なるため、日本残留組が演題登録しました。

林敬次さんの演題は「福島県の甲状腺がん多発の現状と原因」です。
福島県県民健康管理調査(KKK調査)結果について、鈴木眞一氏(福島医大)は昨年12月環境省・福島県主催の会議で「超音波による高精度の健診を行ったことによって、今までは成人で認められていたような甲状腺癌が、小さいうちに早期(若年)に発見された可能性が高い」「被ばくと関係なくすでにできていたものと思われる」「これが福島の子供たちのベースラインの甲状腺癌の頻度となる」と講演しています。

ソチ・オリンピック開催日の2月7日、同調査検討委員会から昨年12月31日までの検査結果が発表されました。
2011年10月から’13年12月までで「74名の甲状腺がん」発見(手術33例)の事態に至っても「多発や原発事故との因果関係を認めていない」政府や福島県の施策の誤り、そして日本小児科学会の無責任さが明らかにされることと期待されます。

「低線量被曝の危険性―20mSvは帰還可能線量でない」が、私の演題です。
福島原発事故に対する国会事故調査委員会報告書によると、2011年4月文科省は放射能汚染を受けている福島県内の学校(保育所)の新学期開始の可否についての検討を、「学校再開」を前提とした「校庭の利用制限の要否」に問題をすり替え、利用できる限度として「被ばく線量20mSv/年」を決定しました。
3カ月で1.3mSv、1年で5.2mSvを被ばくするおそれのある場所は「放射線管理区域」と定めているにもかかわらず、空間線量3.8μSv/hの屋外で8時間活動して、1.52μSv/hの屋内で16時間過ごせば、ICRP勧告の上限線量値20mSv/年を超える被ばくとはならないとして、文科省は「校庭・園庭3.8μSv/h以上では屋外活動を制限、3.8μSv/h未満の学校等では、校舎・校庭を平常通り利用して差し支えない」との通達を福島県教育委員会に出しました。
わが子に被ばくを強いる「通達」に抗議する福島県の保護者たちは文科省まで出向き、文科大臣に対し「20mSv/年の撤回の要請」をしたため、「当面、1mSv/年を目指す」との通達変更に至りました。
ところが昨年11月原子力規制委員会は、放射能汚染地域への「住民の帰還に向けた安全・安心対策の基本的考え方」の中で、一般住民の年間被ばく線量限度とされる1mSv/年を無視して、妊婦や子供の区別なく帰還可能線量を20mSv/年に引き上げました。
この判断を受忍すべきでしょうか?
昨年5月英国の医学雑誌(BMJ)に、「低線量被ばくに障害性があることを証明」したオーストラリアからの論文(Mathewsら)が掲載されました。
約1100万人を対象とした調査で、幼年期や青年期にCT検査を受けた68万人(0歳から19歳)を平均9.5年間追跡して、その集団の発がんリスクをCT検査を受けていない1026万人の発がんリスクと比較しています。
20歳までに少なくとも1回CT検査を受けた人々では、発がんリスクは平均24%増加し、増加率はより若年での検査で高くなりました。
この論文で問題にしているCT検査1回あたりの被ばく線量は「平均4.5mSv」です。
BMJのEDITORIALS(論評)によると、「過去には、電離放射線による発がんのリスクモデルは主に日本の原爆被ばく者の長期に亘る調査に頼ってきたが、それは約50mSvより以上の線量で発がんのはっきりとした増加を示した」「この研究で、Mathewsらは電離放射線に起因する発がんリスクの重要性について有力な(compelling)データを提起した」「CT検査に由来する低線量被ばくでのリスク増加の観察は、LNTモデル(線量に応じて障害は直線的に増加し安全閾値はないこと)を支持した」と述べられています。
「20mSv/h」を撤回させるべく頑張ります。

小児科医 伊集院