鈴木福島医大教授は、2月の「国際フォーラム」でも、福島での甲状腺癌多発が被曝によるものでないと決めつけています。その理由の一つに、甲状腺癌の組織学的分類が違うことを上げています。「乳頭がん」の中のサブタイプの比率が福島とチェルノブイリでは違うからというわけです。
今回は、前号のお約束通り、この問題を検討します。
まず、甲状腺癌の組織学的分類は、大きく分けて、乳頭癌、濾胞腺癌、髄様癌、未分化癌、低分化癌、悪性リンパ腫に分けられます。(森一郎ら2010、日本甲状腺学会雑誌)、この分類では乳頭癌がほとんどで、その比率をみても、調査集団の被曝している率とは全く相関しません(表)。そのため、この分類を基に、被曝によるものかどうかの判断はできないことがわかります。この分類による比較では、福島の型は32例が「乳頭癌」で、1例のみが「低分化癌疑い」です。(表1)
論文著者名 | 乳頭癌比率(%) | 被曝歴+の比率 |
---|---|---|
Harness | 94 | 0 |
Milliman & Pellitteri | 80 | 0 |
Ceccarelli | 92 | 4 |
Segal | 80 | 17 |
Frankenthaler | 91 | 20 |
Feinmesser R et al. 1997 Carcinome of the thryroid in children- a reviewより
そこで、鈴木氏は乳頭癌の中のsubtypeに目を付けて、それらのsubtypeの比率がチェルノブイリと福島では違うので、福島の甲状腺癌は被曝によるものでないとしています。元文献は、年齢分布の違いに引用されているNikiforoba 1994によるものと思われます。というのも、乳頭癌のサブタイプを検討している文献はとても少ないからです。そこで、この文献の内容にそって検討してみますと、下表の様に、確かに福島とチェルノブイリでは、usual(typical)のサブタイプの比率が全く違います。
しかし、下表のPeterらの集計した14%だけが被曝した既往のある甲状腺癌の集団(右欄)と比較してみても、これまた福島とは全く違った比率になっています。ほぼ100%が被曝している集団とは比率が違うが、わずか14%しか被曝していない集団とも違う比率です。
論文著者名 | 乳頭癌比率(%) | 被曝歴+の比率 |
---|---|---|
Harness | 94 | 0 |
Milliman & Pellitteri | 80 | 0 |
Ceccarelli | 92 | 4 |
Segal | 80 | 17 |
Frankenthaler | 91 | 20 |
したがって、福島の分類は、被曝集団とも被曝していない集団とも似ていない、と言えても、それ以上は何も言えず、ましてや福島の甲状腺癌が被曝が原因でないとは言えないのです。
ところがここにあげた分類は、2004年改訂のWHOの分類やそれに準じた日本の分類とも非常に違う分類となっています(森一郎ら2010)。したがって、その面でも、この分類により、福島で発見された甲状腺癌は被曝でないとはとても言えません。
(はやし小児科 林敬次)