医療制度情勢 病床転換型居住施設に断固反対する!(NEWS No.467 p07)

厚生労働省の長期入院精神障害者の地域移行に向けた具体的方策に係る検討会は7月1日、退院促進で空いた病床を居住施設に転換することを条件付きで容認する報告書をまとめた。「病棟転換型居住系施設」は、病棟を介護型施設、宿泊訓練、グループホームやアパート等に転換するもので、生活の場は病院の敷地内にとどまる。にもかかわらず、数字上は精神科病床は削減され、地域移行が進んだと見なされる欺瞞的な政策だ。
日本では約34万の精神病床に約32万人が入院している。このうち1年以上の長期入院が約20万人で、病床数、長期入院とも先進国では突出して多い。6万5千人は入院が10年以上に及ぶ。退院後の行き場がなく、何十年も入院している人も多い。高齢化が進み、年間およそ2万人が精神科病院で亡くなっている。
国は戦後、民間精神科病院の建設を促進し、隔離収容政策をとってきた。日本の精神病床は世界的に見ても多く、平均入院日数も約290日と突出して長い。精神科病院の医療収入は入院医療が4分の3ほどを占め、民間病院は空床が多いと収入が減るため、患者を囲い込む傾向がある。社会の偏見も地域移行を妨げてきた。
報告書では、入院中心の精神医療を改めるため、入院の必要性が低い患者の退院を促進して病床を削減する構造改革が必要だと指摘した上で、患者が退院して不必要となった病床については、高齢などを理由に退院には否定的な患者の受け皿として活用することを容認している。ただし居住施設への転換の際は、本人の自由意思の確保や利用期間の制限を設けるべきだとした。
精神障害の当事者や支援者の反発は強い。6月の反対集会には3千人余が参加した。長期入院を経験した精神障害者から「病棟転換は病院経営のためで、患者のためではない」といった声が相次いだ。「看板の掛け替えにすぎない」との批判が強い。何よりも、長期入院によって精神障害者の人権が損なわれる。日本が1月に批准した障害者権利条約は「全ての障害者は地域社会で生活する平等の権利を有する」(第19条)と定めている。病院の敷地の中で、病院の建物と同じ建物で引き続き暮らしていくことを社会復帰、地域移行とはいえない。日弁連は会長声明で「一度整備されれば恒久化してしまう」と懸念を表明した。厚労省が行った入院患者への意向調査でも、退院先が病院の敷地内ならば退院したくないという回答が多数となっている。
真に地域移行を進めるためには、地域福祉サービスの拡充、住環境整備等の社会資源整備と、ピアサポートをはじめとする当事者エンパワメントの拡充が不可欠である。「病棟転換型居住系施設」をつくることは、事実上、長期入院を固定化し、患者の隔離収容を続けることを容認するもので、断固として反対する。
(いわくら病院 梅田)