経産省前テントと命を守る訴訟で意見書提出

2月17日付で東京地裁に対して「経産省前テントと命を守る裁判に関わる専門家意見書」(本文PDF 図表PDF)を提出しました。この意見書は、経産省前テントひろばの皆さん、経産省前テントと命を守る裁判弁護団からの要請があったものです。東京地裁は、だまし討ち的に結審し、2月26日に「テント撤去」「損害金請求約2800万円」などの不当判決を出しましたが、この意見書が提出された2月17日という時期は、判決直前の重大な局面を迎えた時期での提出でした。

<今回の意見書の概要>
チェルノブイリ事故後に多発した甲状腺がんが、福島県県民健康管理調査で多数発見されました。
その発見率は、チェルノブイリ周辺地域での多発時期の発見率とほぼ同様の発見率です。また、日本のがん統計との比較でも明らかに「アウトブレイク」(異常多発)であることを岡山大学津田敏秀教授が明確に証明されています。
私たち医療問題研究会に集まる医師たちは、独自の調査・検証活動も加え、甲状腺がんが「アウトブレイク」(異常多発)であることを、日本小児科学会などの学会発表、医問研ニュースへの掲載や全国での講演会などで主張してきました。それが、今回の意見書の中心的な内容です。

この基本的内容は、2014年3月に医療問題研究会の3人の医師が招待され、ドイツで開催された国際会議「原発事故がもたらす自然界と人体への影響について」(核戦争防止国際医師会議・ドイツ支部らが主催)で発表され、ECRR(欧州放射線リスク委員会)などの科学者の注目するところとなりました。

さらに被曝による健康障害は甲状腺がんだけではありません。
漫画「美味しんぼ」は被曝と鼻血の関係を投げかけましたが、実際に多様な健康障害が生じています。
福島でも、広範な健康被害が生じていることの一端が、津田教授が双葉町の依頼を受けて実施したアンケート調査や、死産率や乳児死亡率の疫学分析でも明らかになっています。そして、このことが今後の大きな課題であり、意見書の後半で記載しました。

WHO(世界保健機関)は「原発事故健康リスク評価」(2013年2月)を発表し、その中で、「原発事故による被曝が原因で、放射能汚染された福島県の住民の間で、甲状腺がんが多発し、小児白血病、乳がん、固形がんも増加する」と明瞭に述べています。
しかしながら、多くの国民はこの事実を知らされていません。

緊急に求められる必要な対策の内容では、被ばく軽減策としての避難、保養、食の安全が重要です。
甲状腺がんは今後さらなる多発が考えられ、それに備えた医療体制や検診体制の整備が必要です。甲状腺がんが多発していることを考えれば、対策は遅らせると被害が甚大に拡大してしまいます。
現状では甲状腺がん検診しか行われていませんが、白血病等の血液がんの対策、その他のがん対策、非がん疾患に関しては、出生異常、循環器疾患、・・などに対する対策が必要です。
甲状腺がん異常多発の実態の解明とともに、広範な健康被害の実態を明確にさせ、必要な医療を求める健康診断の重要性が確認されます。

この意見書は、福島県と近隣地域で生じている事実に基づいて、データを科学的に分析(人を対象とした場合は疫学分析)し、厳密に論じ、原発事故後福島県をはじめ、東日本近隣地域で生じている健康被害を検証したものです。

言うまでもなく医学は自然科学ですので、医学に関する法律事例はまず医学的知見を踏まえ、その上で法的判断が下されるべきであると考えます。

東日本大震災と福島原発事故から約4年が過ぎましたが、この意見書が、様々な被害にあわれた皆様にお役にたてば幸いです。

医療問題研究会 高松

意見書は下記からダウンロードできます。
本文PDF
図表PDF