福島県:甲状腺がん増加をごまかす「先行調査」「本格調査」の検討(NEWS No.473 p04)

昨年12月25日、福島県県民健康調査の10月31日現在のデータが公表されました。
これまでの、いわゆる「先行調査」では、296,586人が受診し、2次検診対象者の89%が2次検診を終了し、がん「発見数」108人(+良性1人)、手術数84人(+1人良性)、実に78%が手術されています。約30万人当り84人の手術数ですから、10万当り約28人となります。
年間手術率(手術が適切なら罹患率と同程度)は、被曝からの年数を考慮して、23年度は41,810人中14人、24年度は被曝より平均2年後検査のため139,341人中50/2=25人、25年度は同3年後のため115,435人中20/3=6.7人となります。(分母は2次検診終了率が高いため、それでの補正なし)全国甲状腺がん罹患率平均10万当1.1(高い年齢層の15-19歳2010年)と比較しても、23年度は30倍、24年度16倍、25年度5.3倍にもなります。
重要な事は、これまでの「先行調査」に加え、「本格調査」の一部結果が発表されたことです。「先行調査」の意味は「本格調査」のための準備的調査、「基準値」を知るための調査としていることです。福島県・環境省は「先行調査」で発見された甲状腺がんは多発でなく、それが「基準値」=正常値であり、原発事故とも関係ないという姿勢です。
しかし、「先行調査」での発見率は、1)全国がん登録と罹患期間で補正をして比較しても、2)チェルノブイリ汚染地域での発見率と比較しても、3)福島で地域差があり、土壌汚染の程度と発見率は比例していることを考えても、異常に高いものです。しかも、手術率は福島の子どもで全国平均の5-30倍です。これは異常多発としか言えません。
他方、今回初めて発表された「本格調査」では、4人の甲状腺がんが発見されました。1次検診結果判定者60,505人中、2次検診対象者は457人、うち2次検診終了者155人(33.9%)です。今後2次検診で1人も発見されないとしても10万当たり人6.6人、今後の2次検診でもこれまでと同比率で発見されると考え2次検診終了率で補正しますと19.5人となります。
検討委員会がなんと言おうと、これは「先行調査」に積み上げられる発見率になります。ちなみに、チェルノブイリ事故後の検診で直径0.4-3.7cmでがんでなく硬結とされていても、10年後にはその7.5%からがんが見つかったとの報告もあります(Hayashida N et al.PLOS one2012;7:e50648。)
「先行調査」での発見率は正常で「本格調査」での発見率が甲状腺がんの増加を示すものとするのは間違いです。それは、多発をごまかす議論です。「先行調査」も「本格調査」もひっくるめて評価しなければ、被曝による増加を正確に評価できません。
政府・福島県はチェルノブイリでは3-4年は増加なしとしていますが、4年間は検診が行われておらず、単に多数が発見されなかっただけです。それを根拠に、これまでの福島の発見者は増加分でないとして、今後の発見者のみが被害者であるとするのは、間違いです。

はやし小児科 林