抗インフルエンザ薬に関する小児科学会の回答中の、紹介2論文について(NEWS No.473 p06)

日本小児科学会は、コクランレビューの結果を受けて、これまでの対応を一定修正したようで、季節性インフルエンザや、軽症患者への投与は特に推奨しない、というような意見を表明しました。
これはとても良いことで、休日診療所でこの文章を患者さんに見せて説明したところ、たいていの方はすぐに納得してくれました。
他方で、日児は、いずれもロシュ社がお金を出した2つの論文をあげて、1)24時間以内に使用すると、「解熱短縮期間が3.5日にも上る」、2)2009年の豚インフルエンザ流行時に早期に抗ウイルス剤を使った人の方が死亡率が少なかった、などとしています。
まず、「Heinonen D et al.CID 2010:51:887」の文献について検討します。
日児は「解熱短縮期間が3.5日」としていますが、このデータはどこにもありません。3.5日はインフルエンザAの人で、咳・鼻水などの「病気の回復resolution of illness」の短縮期間です。解熱短縮期間はインフルエンザAで1.8日ですが、全インフルエンザでは1.2日です。(文献表3)まあ、これは日児の単なる表の見間違いかもしれません。
しかし、この論文には以下のような大きな問題点があります。
1)ロシュの資金で作られた論文であり、著者9人のうち、1人はロシュのコンサルタント、5人はこの研究で資金を受けていた大学の職員です。
2) しかも、とても重要なランダム化と「labeling, and packaging of the study drugs」 をロシュ社がしています。
3) 第一の目的Primary outcome は、日児が強調する「解熱短縮期間」ではなく中耳炎です。しかも、12時間以内に服薬では有意差がありますが、24時間以内服では効果を証明できていません。
4) 副作用は、嘔吐だけでもタミフル群202人中59人、プラセボ群204人中38人(1割増加、P=0.0124)であり、日児は嘔吐を増やすことにも言及すべきです。
5) 脱落は、タミフル群は202人中11人、プラセボ群は204人中5人です。なんらかの都合が悪いことが起こって、タミフル群から多く脱落した可能性があります。
6)  研究方法は、まずタミフル202人とプラセボ204人にランダムに分けらますが、効果の分析は検査でインフルエンザが確認されたタミフル群37人、プラセボ群61人でされています。これは効果があったことに対する、分母の数を少なくして、「効果あり」の比率を多く見せる方法です。副作用では採用されているIntention To Treat分析を効果についてもタミフル群202人、プラセボ群204人についてすべきです。
また、インフルエンザかどうかわからないのにタミフルを投与するこの実験に基づいて実際の診療をすると、インフルエンザ患者の何倍(この実験では204/61=3.3倍)もの人に、タミフルを投与することになります。61人のインフルエンザを1日早く解熱させるために、204人にタミフルを投与し、21人の嘔吐を引き起こすのです。
以上より、この論文は、しっかり読めば効果と副作用のバランスからタミフルの有害性を証明するものですが、さっと読む人にはタミフルの乱用を奨励する論文です。

はやし小児科 林