くすりのコラム 抗潰瘍薬:新型プロトンポンプ阻害剤ボノプラザン(NEWS No.476 p08)

今年の2月に武田から新しいタイプのプロトンポンプ阻害剤ボノプラザン(商品名「タケキャブ」)が発売されました。ボノプラザンは酸による活性化を必要とせず、可逆的でカリウムイオンに競合的な様式でH+, K+-ATPaseを阻害します。ボノプラザンは塩基性が強く胃壁細胞の酸生成部位に長時間残存して胃酸生成を抑制し消化管上部の粘膜損傷形成に対し、強い抑制作用を示すと添付文書に書かれています。

薬剤師の友人から「タケプロンよりいいのが出たとMRが話しにきたよ。」「潰瘍再発率が他のより低くて、うちの同僚の薬剤師はピロリ除菌に失敗したけど次はこれを処方してもらうと早速病院に行ったよ。」「酸で活性化する必要がないから飲んですぐ効くらしい、もっと早く開発できたらよかったのに。」と概ね薬に対するいい印象の情報をそれぞれくれました。
同じPPIであるランソプラゾール(タケプロン)は1995年に米国で承認され日本では2002年に発売開始されました。ボノプラザンは日本で初めて承認されました。このような良い薬であればまず米国で承認を受けるはずですが、何故日本での承認が先になったのでしょうか?武田は昨年ピオグリタゾン(アクトス)が膀胱癌を誘発するリスクについて患者や医師に警告を怠ったとして多額の賠償金支払い命令を受けました。米国での発売は有害事象の情報提供を十分に行った上で、なければまた天文学的賠償金に悩まされるかもしれません。

薬事・食品衛生審議会 医薬品第一部会 議事録によると次のような発言が見られます。
しつこいようですが、私もやはりガストリンのところが少し気になってます。従来の非可逆的なプロトンポンプインヒビターに比べたら、もっと速やかに戻ると思っているのですが、やはり投与終了後2~8週間たたないと元に戻らないということで、もしかしたら、このガストリンに対するダイレクトなエフェクトが何かあるのではないかと。やはりガストリンは最近、長期的な作用として、増殖作用があるということはいろいろ指摘されているところなので、この神経内分泌腫瘍以外、例えば壁細胞の増殖などが結構起こってくると言われています。

ガストリンは、主として胃の幽門前庭部に存在するG細胞から分泌されホルモンです。胃における主細胞からのペプシノゲン分泌促進作用、胃壁細胞からは胃酸分泌促進作用、胃壁細胞増殖作用、インスリン分泌促進作用などが認められています。ガストリン高値の注意事項は確かに添付文書には記載されていますが薬の有効性、無害ばかりの情報がMRから流され全く注目されていません。審査報告書p74には因果関係が否定されなかった有害事象として糖尿病や胃癌などがあげられていることに大きな不安を感じます。胃薬を飲んで糖尿病や胃癌になったとしても有害事象として報告するでしょうか?今後このボノプラザンのように国外より日本での承認が先になる薬が増えてくるかもしれません。イレッサは世界に先駆けて日本で発売されました。新薬の有効性ばかり強調する販売活動を無罪とする日本では警戒心をもって新薬を使う必要があります。

薬剤師 小林