臨床薬理研・懇話会4月例会報告(NEWS No.477 p02)

Ⅰ.シリーズ 「統計でウソをつく方法」を見破る 第2回
RCT(ランダム化比較試験)を装うが バイアスの入りやすいPROBE法

ディオバン問題で、日本で行われた2つのPROBE試験の結果(Kyoto Heart Trial, Jikei Heart Trial)と、海外の複数のダブルブラインド試験(Value Trialなど)結果の相違が指摘された(2009年日本高血圧学会シンポジウム、桑島巌氏)。
Jikei Heart Trialの結果は、「狭心症で入院、脳卒中で入院、心不全で入院では大きな差があるが、心筋梗塞や心血管死では差がない」というもので、デザインの段階では「入院」は入っていなかった。
PROBEとはProspective Randomized Open Blinded Endpoint(前向きランダム化オープン結果遮蔽試験)の略で、前向き・ランダム化・オープン(医師、患者)で試験が実施され、エンドポイントの評価を、割り付けを知らない第3者が行うことで遮蔽化するのが特徴である。
1992年にDahlofにより、オープン試験の欠点を排除して試験の精度を高めるとして提唱された。ランダム化比較試験(RCT)であることが強調されるが、医師も患者もどの治療を受けているかが判っているため、結果にバイアスが入りこみやすい。実施が容易で低コストなので企業の意向に合致し広く行われている。とりわけ研究と診療の区別があいまいな日本では、「臨床試験を保険診療の中で行いやすい」という「メリット」もあり、市販後大規模比較臨床試験などに多用されている。

PROBEの重要なルール

1.バイアスの入らない「ハードエンドポイント」の採用

  • 死亡、心電図所見、血液検査数値、現場担当医の意志(患者の意志)が介入しやすい「ソフトエンドポイント」設定の排除
  • 病気悪化による入院など
  • 血管形成術の実施など

TIA(一過性虚血発作)を含む脳卒中など、介入の余地の大きいソフトエンドポイント

  • 狭心症なども客観的でない要素が入りやすい
  • 計測者の意思が介入しやすい心臓超音波による左室肥大
  • 複数計測し、再現性の乏しい蛋白尿

2.試験関係者による計測や統計解析
の排除
3.エンドポイントを評価する委員会の独立
4.エンドポイントは事前に明確化

PROBE法への批判

それでも医師が患者の割り付けを知っているため、エンドポイント委員会に上げる情報にバイアスがかかる可能性がある。症例として上がってこなければ、「情報の選択バイアス」は防ぎようがない。観察の最前線で割り付けがわからないようにしなければ、都合の良いデータが選択、報告される危険性が高くなる。「名称に“Blinded”が入っているが、結局携わる医師やスポンサーの思いが入りやすいオープン試験」(上島弘嗣氏、滋賀医科大学)なのである。プラセボ効果が試験薬のみに有利に働き、販売促進に用いられやすい。「日本の臨床試験の信頼性回復のためにも二重遮蔽法で行う必要がある」(桑島巌氏)と指摘されている。
臨床試験の論文を読む時は、RCTという試験の形式だけにとらわれず、試験デザインや統計解析の具体的な内容に注意する必要がある。

Ⅱ.他のテーマ
1.日本小児科学会の報告
2.くる病の症例について

Strontium induced Rickettsの文献