文献レビュー ペクチンは放射性セシウムの吸収を防ぎ、体内からの除去を促進するか(NEWS No.477 p07)

チェルノブイリ事故のあと、ベラルーシ・ウクライナ・ロシアの一部で、内部被ばくを軽減させる方法の一つとして、リンゴなどから精製したペクチンというものを食べさせることが行われています。
福島原発事故のあと、そのような情報が本やウェブサイトで流れていますが、日本ではどれほど実施されているのかわかりません。
日本では、これまでに医学的観点からこの手段が本当に良いことかどうかの検討がなされていないように思われます。私たちもこの問題について検討できていなく、意見を表明することができていませんでした。ともかく、汚染源から離れること、汚染された食物を摂取しないことを強調はしてきましたが、福島で被ばくしながらの生活を余儀なくされている子どもたちのためにも、被ばく軽減策の一つであるペクチン摂取の評価が必要と考えています。
遅まきながら、このペクチンがどの程度、人間で効果があるのかの、文献的評価を始めましたので、今回はその一部をご紹介します。
検索語は広く網をかけるために「pectin and cesium」としました。
1、 まずはコクランライブラリーを検索しました。たった1件RCTがヒットしました。
2、 次に、PubMedを検索しました。ヒットしたのは9件のみでした。コクランの1件も含まれていました。これらの要約を読みますと、人間対象は5件、ラットが2件、化学的検討などが2件でした。
3、 人間対象のうち、1件は、ランダム化比較試験RCTでプラセボを対照とした、二重目隠し法(ペクチンを誰が服用したか、本人も投与し評価した者もわからない)という最も科学的な形式をとっていました。RCTかどうかわかりませんが、二重目隠し法がもう1件、2件が比較対照試験でした。1件は、質問に対する回答でした。
4、 これらの中で、アウトカムが臨床症状と体内セシウムが1件、セシウムのみが4件でした。
5、 この臨床症状を評価したのは、有名なバンダジェフスカヤ(セシウム濃度と心臓などの障害との関係を調べ、ロシア当局から不当な拘禁を受けた学者の妻)が筆頭著者の論文です。
この論文では、高セシウム地域の子どもに汚染されていない食事を与え、ペクチンを16日間投与した前後の比較をしたところ中等度汚染者(平均38Bq/Kg)のグループでは前後でセシウム濃度が39%の減少、平均122Bq/Kgの方が28%の減少がありました。
臨床試験では心電図の異常がペクチン群投与後有意に改善していたが、その他の例えば心音の異常や高血圧は改善しなかったという結果でした。この論文には、少々疑問点があり、例えば心音異常の定義が論文中には見られません。この点は、著者に手紙を送って詳細を教えてもらうほかありません。
今後は、その他の論文の分析と、それらに引用されている文献の収集が必要になります。結果は、今後逐次報告します。
はやし小児科 林