臨床薬理研・懇話会5月例会報告(NEWS No.478 p02)

Ⅰ.シリーズ 「統計でウソをつく方法」を見破る 第3回
複合エンドポイントの問題点
エンドポイントとは臨床試験で被験薬などによる医学的介入の効果をみる指標である。例えば心筋梗塞の発症やそれによる死亡の抑制を期待する被験薬では、次の2種類がある。1) ハードエンドポイント-心筋梗塞、総死亡 (主観がまじりにくい)、2) ソフトエンドポイント―狭心症発症、狭心症による入院、PCI(経皮的冠動脈インターべンション)の実施、CABG(冠動脈バイパス術)の実施、心不全の悪化、心不全による入院、TIA(一過性脳虚血発作) (主観などがはいりやすい、厳密な判定が難しく、そもそも定義が難しいエンドポイント。重要性も前者と比較して低い)。
複合エンドポイントとは、ひとつの単純なエンドポイントでなく、複数のエンドポイントを組み合わせたもの。かつては、プライマリー・エンドポイントとして最も適切な指標を1つ選定し、臨床試験プロトコールに明記することが推奨されていた。それが様変わりし、臨床試験、とりわけ循環器領域の臨床試験で様々な複合エンドポイントが多用されている。
複合エンドポイントのねらい
  • 複数のエンドポイントの設定により、エンドポイントを経験する患者の数を増やし、統計的な検出力を高め、臨床試験に必要な患者数を減らすことを可能にする。
  • 多くのエンドポイントを並べることにより、それら全体に対する被験薬の治療効果のインパクトを強めることができる。
複合エンドポイントの問題点
  1. 並べられた多数のエンドポイントの患者アウトカムにおける重要性は均等か。また、それぞれのエンドポイントに対する被験薬の効果は同程度か。(違うのでは複合そのものが正当化されない)
  2. 複合エンドポイントを用いた臨床試験では、複数のエンドポイントのいずれかがはじめてみられた時点で、複合エンドポイントのイベントが「あり」とカウントされる。患者にとって真に重要な意味をもつエンドポイントへの効果が不明確になるおそれがある。患者にとって重要性が低いエンドポイントの発生率が高く、そのことが治療効果と関連しているため、被験薬の効果を過大に評価し、誤って印象づけることになりやすい。
  3. 複合エンドポイントのひとつが発生した後のイベントが記録されないので、例えば「総死亡そのものだけ」を取り出した比較を、論文から第3者が検討しようとしてもできない。
  4. 複合エンドポイントの使用が臨床試験の解釈と診療への応用を難しくする。
最近循環器領域でよく使われる複合エンドポイント
MACE: major adverse cardiovascular events
これがMACEという定まった定義はない。通常、安全性と有効性を反映するエンドポイントを含むが、関連性の程度がさまざまな多種の臨床イベントが含まれる。様々な定義の複合エンドポイントMACEは異なった結果と結論に導く。それゆえ、とりわけMACEの言葉は用いない方が良い。
薬剤師 寺岡