文献レビュー ペクチンは多人数の「二重目隠し試験」でもセシウムを低下(NEWS No.479 p04)

前回は、比較試験RCT+二重目隠し法について報告しました。今回は、パブメド検索でヒットした、1件のランダム化でないらしい「二重目隠し法」の論文(Hill P et al.Radiation Protection Dosimetry 2007; 125:523-526)について報告します。
これまで紹介しましたように、2004年発行の論文(Bandazhevskaya GS et al. Swiss Med Wkly2004; 134:725-729)による94人へのリンゴのペクチン16%にビタミン・ミネラルを加え、味付けした「Vitapect」という製品を 1日5g×2、16日間投与し、その投与前後の比較でセシウム137の減少と症状の改善も改善されたとの研究があります。また、論文(Nesterenko VB et al. Swiss Med Wkly 2004; 134: 24-27)では、64人への15-6%のリンゴペクチン1日5g×2、3週間投与の、ランダム化・二重目隠し法での、効果ありの報告があります。これらの研究結果を、さらに多くの人数で確認したのが今回の論文です。

ペクチンはVitapectを 1日5g×2錠、2週間投与されています。
比較方法は、40-50人のグループを2群にわけ、それぞれにVitapectとプラセボ投与します。そのグループを8つ作り、合計729人を調査しています。それぞれのグループをどのように分けたかも、二重目隠し法の方法も記載されていません。RCTであるような記載はありません。
ホールボディカウンターでセシウム137を測っていますが、最小検知可能値(0.55kBq)以下の子どもは除いて集計しています。これでは、ペクチン群の方が不利なデータになると思われますが、あえてそうしているのかもしれません。その結果、ペクチン群は285人、プラセボ群が330人の計測値を集計しています。両群の背景(性・年齢・体重・試験前のセシウム値)には有意差はありません。
効果判定は、投与前のセシウム137の計測値と比べ、投与後の計測値ではどれだけ減ったかを両群で比較しています。(下表)

Vitapectプラセボ
平均値32.4(+/-0.6)%14.2(+/- 0.5)%
中央値33.6%13.1%
(  )内は、+/-標準偏差

平均値・中央値共に、Vitapectの方が2倍以上減少していることがわかります。
この論文は、RCTではないとはいえ二重目隠し法で、700人規模でペクチンの効果を再確認しています。しかし、RCTの方法も二重目隠し法の方法も記載されておらず、Nesterenko2004の論文と比べると、質的に劣るものです。

PubMedで検索した文献で、英文の論文では、比較試験はこれまで紹介した3論文に限られました。その意味では、チェルノブイリ周辺では広く使われている一種の薬剤としては、厳密な評価が少ないものと言えますが、少なくとも短期間の効果はあると言えそうです。
人での比較試験では効果を否定するデータはありませんが、動物実験では、ラットでペクチン、解毒剤として古典的な薬剤であるPrussian blue、何も与えない3群を比較した論文(LeGall B et al.Biochimie 2006 ; 88:1837-1841)があります。これでは、Prussian blueは大変効果があるのに、ペクチンは全く効果なしとなっています。この論文には、ブラインドの仕方、実験動物の分け方など記載がありません。

これらの論文の他に、多数のロシア語文献も含めてまとめられている総説論文がありますので、次はその紹介をします。

はやし小児科 林