いちどくをこの本『新薬の罠』(NEWS No.481 p07)

『新薬の罠』
鳥集 徹 著
文藝春秋、1600円+税
2015年5月25日刊行

日本の薬剤問題にこれまでになく深く切り込んだ本がでました。

内容を見てゆきます。
第1章は子宮頚がんワクチンの副作用に苦しむ少女たちの症状を具体的に挙げながら、その原因をめぐる厚労省の委員会の問題点に迫ります。
ワクチンの効果や副作用を検討する厚労省の委員会のメンバーのほとんどがこのワクチンの製造販売元のGSKとMSDから多額の「奨学寄付金」などを受けていことを暴露しています。

また、このワクチンを普及させた原動力となったのは、ワクチン会社と癒着している「子宮頚がん制圧をめざす専門家会議」の面々です。
彼らが学会、マスコミや政府にいかに働きかけているかが紹介されています。

さらに、このワクチンを日本で認可させるために、製薬会社のロビイストが、いかに政治家たちを抱き込んだかもよくわかります。
朝日新聞が認可に果たした役割は大きく、マスコミも大いに罪があることがわかります。

この本の内容はこれらの癒着の暴露だけでなく、WHOなどのデータを入念に調べ、例えばアメリカでもワクチンと関連した死亡が220件、重篤例が5360件もあることを詳しく調査しています。

第二章は薬漬けにするための製薬企業の戦略を検討しています。その第一は、降圧剤ディオバン問題で有名ですが、臨床試験に介入して、効かない薬を効くように装うことです。
次に、医者に対しての薬漬けの誘導は、作成委員を抱き込んだ各種の病気の「ガイドライン」作成であることが説明されています。
さらに、テレビコマーシャルなどを使っての「疾患啓発広告」です。その典型例が、気分の重さなどを「こころの風邪」と称して病気にし、患者も医者も気がるにつかうようになった抗うつ剤などですが、医問研も古くから批判してきた昔「抗痴呆薬」いま「抗認知症薬」の「アリセプト」の例で紹介しています。

第3章では、医学界がいかに製薬企業に取り込まれているかを解説します。
ほとんどの学会が当たり前のように開いている「ランチョンセミナー」をはじめ、各大学などへの「奨学寄付金」346億円(2012年)、「研究開発費」はなんと2438億円、などです。
この中でEBMを売り物にした京大「社会健康医学系専攻」が武田製薬から莫大な資金を得て、降圧剤ブロプレスの宣伝用に使われた不正なデータ作りをしたことが解説されており、強い怒りを覚えました。

第4章では、現状の改善のための「処方」として、アメリカの「サンシャイン法」で「利益相反」の透明化を図る、などの提案がされています。
しかし、なぜか医療関係者だけでなく消費者の代表も入った民主的討議の中でその中立性を守ろうとしているコクラン共同計画や、フランスのプレスクレルや日本のJIPのような企業と独立した薬剤評価団体のことには触れていません。

その点を除けば、著者はさまざまな資料を調査し、一般の方には理解しがたい臨床試験のことなどをわかり易く説明しています。現在の薬問題を考える上で必読の本と思われます。

はやし小児科 林