学会報告(NEWS No.484 p06)

12月5日大阪小児科学会で医問研会員が「低線量放射線障害の検討」とまとめた4演題を発表しました。演題を通して、福島原発事故による放射能汚染がもたらしている健康障害の解明と放射線防護の強化のために、小児科学会が積極的な役割を果たすべきだと学会員に訴えましたので、その内容を報告します。

*1 「甲状腺がん異常多発―もはや多発は揺るがない事実である」(高松)

本年8月31日の第20回福島県「県民健康調査」検討委員会の資料より「甲状腺検査」(先行検査・本格検査)の分析結果を、津田敏秀氏(岡山大)の統計学的検討資料の提供も受けて報告しました。まず、国立がん研究センターの全国がん罹患モニタリング集計では、小児/思春期の甲状腺がんは年齢依存性で14歳以下は殆ど発生がないことをグラフで示したあと、有病割合(=有病率・発見率)と発生率(=罹患率)は異なることの説明がありました。福島県と全国の甲状腺がんの発生率を比べると、通常あり得ない異常な比率で福島県は高く、2巡目の本格検査においても先行検査と同様に、20倍から50倍の異常多発が確認されていることを、多くの図表を示しながら報告しました。

*2 「繰り返すスクリーニング検査による甲状腺がん高発見率」(林)

8月31日の福島県よりの発表内容、PubMed、Google検索で得られた、繰り返されるスクリーニングに関する論文、そして国立がんセンターがん登録・統計などをもとにした報告でした。先行や本格と名付けられている各回の超音波検査で発見されている甲状腺がんに、被ばくとの関係で、どんながんが含まれているかを示した図、また繰り返すスクリーニングでの集団はそれぞれ、どんな集団かをしめした図は林氏作成のものでしたが、とても判りやすいものでした。2年毎のスクリーニング調査を行ったウクライナ・アメリカ共同調査結果やスクリーニングでがんが発見できなかったデータを提示した上で、福島での甲状腺検査では今後も、全国での発生よりもはるかに多くの甲状腺がんが発見され続けることが、今回の本格検査の結果が明確にしているとの主旨でした。

*3 「福島でも事故後に外表性形態異常が増加」(入江)

県民健康調査「妊産婦に関する調査」の検討では、事故後3年間の質問票集計による先天奇形・異常の発生状況は日本産婦人科医会国際先天モニタリングによる全国平均と比べて、多指・合指症、口唇・口蓋裂が多く、2013年度には内反足、両上肢欠損など外表性形態異常の増加と多様化が明らかとなっています。チェルノブイリ原発事故後のベラルーシでの調査は、多指症が9.1倍、四肢欠損が2.4倍と報告しており、福島における同様な傾向は、胎児への放射線障害の特異性を示唆しています。日本全国の先天異常のモニタリングおよび女性・妊婦の放射線防護の強化が求められるとの結論でした。

*4 「低線量被ばくの危険性―文献的検討」(伊集院)

原爆被爆者の寿命調査からの推定ではなく、外部被ばく線量を把握されている大規模集団を対象として、被ばくによる発がんの危険性を直接評価している調査研究の中で、2011年以降に公表された医療被ばく3文献、職業被ばく2文献の検討結果を報告しました。(いずれも詳細は医問研の新しい本と医問研ニュースをご参照下さい。)
最後に、これらの調査結果に基づき小児科学会として、避難指示解除を進める安倍内閣の閣議決定に異議を申立て、撤回を要請すべきと強調しました。座長の山本征也先生(阪南中央病院)は、小児科医として、子供の放射線被ばくについては、日常の診療の中でも留意していること、この問題について大阪小児科学会運営委員会に対し、申し入れを行うとのまとめをされました。

小児科医 伊集院