臨床薬理研・懇話会12月例会報告(NEWS No.485 p02)

Ⅰ.シリーズ「臨床薬理論文を批判的に読む」第10回
「抗がん剤の臨床評価(2)」

前回、血管新生と腫瘍の成長に関与するチロシンキナーゼを阻害するレゴラフェニブ(スチバーガ)の、進行した消化管間質腫瘍(GIST)の適応追加の根拠となったGRID trial 論文をとりあげました。
イマチニブ、スニチニブが失敗した後進行する転移性ないし外科手術が可能でないGIST患者での有効性安全性の評価、という厳しい条件での第Ⅲ相試験です。
この試験は、プライマリーエンドポイントが全生存(overall survival: OS)でなく、画像診断に基づく無増悪生存(progression-free survival, PFS)であり、しかも病勢進行があればプラセボに割り付けられた患者はオープンラベルのレゴラフェニブにクロスオーバーできるデザインで、実際に85%がクロスオーバーしていました。
このため、疾患自体にたいするレゴラフェニブの有効性評価は困難で、死亡を含む重篤な害作用があり、受け入れがたい結果でした。

今回は、このレゴラフェニブの治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸がん患者での有効性安全性評価は、全生存をプライマリーエンドポイントとしていることがわかり、その論文をとりあげました(CORRECT trial, Grothey A et al. Lancet 2013; 381, 303-12.)
この試験は、プライマリーエンドポイントが全生存(OS)であるとともに、両群のクロスオーバーが禁じられており、有効性が支障なく評価できるデザインです。
結果はOSの中間値がレゴラフェニブ(R)群6.4か月に対し、プラセボ(P)群5.0か月と1.4か月(約6週間)の有意な延長がみられました(ハザード比0.77、95%CI 0.64-0.94、片側検定p=0.0052)。
治療に関連する害作用はR群465例(93%)、P群154例(61%)。
グレード3以上のRによる主な害作用は、手足症候群(83例、17%)、疲労(48例、10%)、下痢(36例、7%)、高血圧(36例、7%)および発疹ないし落屑(29例、6%)で、本剤の血管新生阻害の作用機序に関連した害作用が多くみられています。
治療の平均持続時間は、R群2.8か月(SD2.3、中間値1.7 IQR1.4-3.7)に対し、P群1.8か月(SD1.2、中間値1.6 IQR1.3-1.7)でした。

このように試験デザイン、成績ともに比較的良質の臨床薬理論文で、自分自身が患者であったなら、また医療従事者としてこの医薬品を選ぶかどうかが話し合われました。
きちんとしたインフォームドコンセントがなされることが重要というのが大方の合意でした。

なお、プレスクリール誌の総合評価は「保留」で、「唯一得られた比較臨床試験で、レゴラフェニブは、他に治療選択肢のないいくつかのラインの化学療法を経た転移性結腸直腸がん患者で、全生存を数週間延長させた。
しかし、レゴラフェニブは、しばしば重症で死亡に至るときもある数々の害作用を引き起こした(患者の約40%で重篤な害作用がみられた)。
レゴラフェニブがベストサポーティブケア(がんの症状への最善の対処)を上回る改善を示すかを判断するには、別の良好なデザインのトライアルが必要である」としています。
また、「害作用を知ったうえで、なおかつ全生存を延長するこの医薬品を望む患者は存在するだろう」と記載した上で、「さらに評価のできる臨床試験結果が得られるまで、患者にはサポーティブケアを選ぶことをアドバイスしたい」としています。

薬剤師 寺岡