先行調査の最終結果について、原発からの距離と甲状腺がんの関係について分析した。
方法 市町村を原発からの距離により表1のように6群に層別化した。
表1
群 | 距離(km) | 一次受診数 | 悪性数 |
---|---|---|---|
第1群 | ~20 | 11,626 | 4 |
第2群 | ~40 | 22,345 | 6 |
第3群 | ~60 | 176,514 | 64 |
第4群 | ~80 | 89,484 | 27 |
第5群 | ~100 | 20,467 | 8 |
第6群 | 100~ | 15,720 | 3 |
ついで各群の人月、人年に対する悪性数について、第6群を1とした場合の各群のRRを計算し、95%信頼区間を算出した。
一方、各群の重み付した平均距離を計算し、人年、人月と重み付平均距離との単回帰を分析した。
結果 表2に各群の第6群に対する人月RRと95%信頼区間下限を示す。
表2
悪性 | 人月 | 人月RR | 95%信頼区間下限 | |
---|---|---|---|---|
G6 | 3 | 534,480 | 1 | 0.2 |
G5 | 8 | 641,035 | 2.22 | 0.59 |
G4 | 27 | 1,754,372 | 2.74 | 0.83 |
G3 | 64 | 3,353,003 | 3.4 | 1.07 |
G2 | 6 | 188,060 | 5.68 | 1.42 |
G1 | 4 | 94,515 | 7.54 | 1.69 |
(表3)に人月RRと重み付け距離の結果を示す。
表3
人月RR | 距離 | |
---|---|---|
G1 | 7.54 | 12.0 |
G2 | 5.68 | 27.9 |
G3 | 3.4 | 52.3 |
G4 | 2.74 | 66.7 |
G5 | 2.22 | 93.1 |
G6 | 1 | 112.6 |
(表4)、(図1)に両者の単回帰分析結果を示す。
表4
決定係数R2 | 0.92 |
---|---|
F値 | 48.9 |
F(0.975) | 12.2 |
P= | 0.002 |
定数項信頼区間 | 5.32;9.58 |
傾き信頼区間 | ―0.09;-0.03 |
回帰式 | Y=-0.06X+7.45 |
以上の結果から、福島第一原発からの距離が遠くなるほど甲状腺がんの発見リスクは直線的に下がることが判明した。
もちろん、一次受診数に人月係数を乗ずることで、一年目検査地域に比べ、二年目、三年目で人月数が増え、人工的に人年RRが低く見えることはあり得る。
が、その場合、距離は不変のため、直線回帰することは考えにくい。
また、距離が近い方が必ずしも低線量であったとは限らないが、同じグループ分けで、UNSCEARが発表した空間線量や前号で検討したアンケート結果による外部線量を目的変数として人月RRとの単回帰分析をしても、同様の結果を得た。
それ故、距離は十分線量を反映しているとみることができる。
ついで、本格調査を同様に距離によって4群に分け(中通りまで)、人年や人月調整をせずに同様の分析をしてみた。
95%信頼区間は有意の差はでなかったが、RRは第4群に比べすべての群で1を超え、直線回帰では有意であった。
(表5)に結果を示す。
もちろん、本格調査については、まだすべての市町村の結果が出ていないため、暫定的にしか論ずることはできないが、スクリーニング効果によるがん発見はなくなったと考えられるため、放射線と甲状腺がんの量的関係がますますはっきりとしてくる可能性が高い。
表5
群 | 距離 | がん | 一次受診 | RR |
---|---|---|---|---|
G1 | 12.0 | 3 | 7,134 | 2.51 |
G2 | 27.8 | 5 | 15,072 | 1.98 |
G3 | 56.8 | 20 | 70,976 | 1.68 |
G4 | 67.5 | 10 | 59,725 | 1 |
大阪赤十字病院 山本