医療トピックス 抗うつ剤による自殺行為の増加、5剤のSSRI/SNRIで検証/BMJ (NEWS No.487 p05)

抗うつ剤の有害事象として、攻撃行動の増加がみられ、小児/青少年では自殺行為も増えているとの北欧コクランセンターの研究成果が、BMJ誌オンライン版2016年1月27日号に掲載された。
抗うつ剤の臨床試験や治験総括報告書の有害事象のデータには限界があることも示された。

研究グループは、選択的セロトニン再取込み阻害剤(SSRI)およびセロトニン・ノルエピネフリン再取込み阻害剤(SNRI)に起因する重篤な有害事象の発現状況を調査するために、治験総括報告書に基づいて系統的なレビューを行い、メタ解析を実施した。
欧州および英国の医薬品規制機関(EMA、MHRA)から、5つの抗うつ剤(デュロキセチン、フルオキセチン、パロキセチン、セルトラリン、ベンラファキシン)の治験総括報告書を入手し、Eli Lilly社のウェブサイトからデュロキセチンとフルオキセチンの概略試験報告の情報を得た。

選択基準は、全患者の叙述(死亡、重篤な有害事象、その他の臨床的に重要なイベントの概要)または個々の患者の有害事象の一覧(患者識別子、有害事象[基本語、患者が使用した用語]、期間、重症度、転帰などの詳細を含む)が記載された二重目隠しプラセボ対照試験の論文とした。

主要評価項目は死亡および自殺行為(自殺、自殺未遂/準備行動、意図的自傷行為、自殺念慮)、副次評価項目は攻撃行動およびアカシジア(静坐不能症)とした。

70件の臨床試験(治験総括報告書68本、総頁数64,381頁)に参加した18,526例が解析の対象となった。
これらの臨床試験は試験デザインに限界があり、報告の方法にも乖離がみられ、有害事象がかなり過少に報告されている可能性が示唆された。

例えば、ベンラファキシンの試験を除くと、転帰の記述は付録の患者一覧にしかなく、それも32試験のみであった。症例報告書を入手できた試験は1件もなかった。

全体では、試験薬群とプラセボ群の間に、死亡(16例、すべて成人、OR:1.28、95%CI:0.40~4.06)、自殺行為(155件、1.21、0.84~1.74)、アカシジア(30件、2.04、0.93~4.48)には有意差はなかったが、攻撃行動は試験薬群で有意に頻度が高かった(92件、1.93、1.26~2.95)。

また、成人では自殺行為(OR:0.81、95%CI:0.51~1.28)、攻撃行動(1.09、0.55~2.14)、アカシジア(2.00、0.79~5.04)に有意差を認めなかったが、小児/青少年では自殺行為(2.39、1.31~4.33)と攻撃行動(2.79、1.62~4.81)の頻度が試験薬群で有意に高く、アカシジア(2.15、0.48~9.65)には有意な差はなかった。

Eli Lilly社のウェブサイトに掲載されているオンライン版の概略試験報告には、ほぼすべての死亡例が記載されていたが、自殺念慮の記載はなく、それ以外の転帰の情報も完全ではなかったことから、有害事象のデータを同定するための基礎的文書としては不適切と考えられた。

著者は、「臨床試験や治験総括報告書には限界があり、有害事象は正確に評価されていない可能性があるが、抗うつ剤により攻撃行動が増加し、小児/青少年では自殺行為と攻撃行動が倍増していることがわかった」とまとめ、「治療関連有害事象の発現状況を確実に解明するには、個々の患者データが必須であり、完全な情報を得るには患者の叙述、個々の患者の一覧表、症例報告書が必要である」としている。

本来攻撃行動や自殺行動に分類すべき事象がより軽症に扱われている。適切に分類されれば成人でも小児と同様に攻撃行動や自殺行動が増えている可能性が高い。SSRI/SNRIは小児では禁忌とし、成人でもやむを得ない事例以外は避けるべきだ。

いわくら病院 梅田