くすりのコラム 食肉用動物用ワクチン(NEWS No.487 p08)

私たちの食卓に欠かせないお肉や魚は畜産農家・養殖業者のおかげで消費者のもとに毎日届けられています。多頭飼育のため、感染症にかからないよう飼育することはとても難しいことです。
そこに使われるワクチンや医薬品について、消費者が関心を示さなかったためあまり知られていません。
各家庭で家事の担い手である人たちに魚の中には経口・浸漬・注射などの形でワクチンをしているものがあることを知っているかと尋ねるとみんな驚きます。
浅い海面で狭いところに押し込められて養殖することは自然に生きる魚より病気のリスクが高くなります。
それを防がなければ安く養殖魚を流通させることはできません。

2015年3月18日に「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律関係事務の取扱いについて」の一部改正がありました。食
用動物に用いられるアジュバントを含む製剤に設定される使用期限(と畜場等への出荷前のワクチンを使用しないこととされる期間)の設定の考え方が変わったのです。
それまでは注射部位を顕微鏡下で局所反応消失を確認し出荷までの期間設定が行われてきましたが、ワクチンそのものを人が摂取した場合の健康影響を想定することに変わったのです。
これは非関税障壁の一因である各国の基準認証制度のハーモナイゼーションに向けた動きでした。
使用制限期間の比較の差が大きいものを見ると鶏サルモネラワクチン/アビプロSE300日(日本)、42日(米国)・鶏産卵低下症候群ワクチン/タロバックEDS300日(日本)、0日(EU)と大きな差がありました。
この差を埋めるため急いで改正したのです。
食品安全委員会動物用医薬品専門調査会・第9回会合議事録を見てみると少々不安になってきます。
「育成豚における安全性試験」で6週間という出荷制限をしているワクチンについて肉眼的には接種後4~11週で異常なくても病理組織学的検査では接種後10週でも肉芽組織が残っていると委員が指摘しています。
アジュバントが食品添加物で認められている、異物がなくなった肉芽組織は元々豚や牛の構成成分だけど本当に肉眼的に見えなければそれでいいのか、WHOは注射部位は可食部から外すという条項があると思う、日本では注射部位を切り取った枝肉の値段が下がるので嫌がられる、などの議論が繰り広げられていました。
結局、接種部位ばかり同じ人が食べるわけでもないし、一日摂取許容量(ADI)と許容残留量(MRL)を鑑みることなどを条件に改正通知が出されました。

議論のなかで「魚類の場合、もうヨーロッパ諸国ではアジュバントを一切禁止、ワクチンの場合はいれないということです。」という発言がありました。
ハードルを下げてしまった規制では接種回数を減らす目的で今まで使用したことがない強力なアジュバントが動物・魚用ワクチンに添加される可能性があります。
生食文化のある日本人が海外並みのワクチン使用(出荷)制限期間で飼育されたお肉や魚を食べることに不安を感じることは贅沢なのでしょうか?

薬剤師 小林