臨床薬理研・懇話会6月例会報告(NEWS No.491 p03)

Ⅰ.シリーズ「臨床薬理論文を批判的に読む」シリーズ第16回
C型肝炎治療剤「ハーボニー配合錠」

取り上げる論文について問題薬が多いが、独立医薬情報誌で評価の高い医薬品も取り上げてはとの意見をいただき、これにしました。Lancet Infect Dis. 2015; 15(6): 645-53. プレスクリール誌が、「2015年の新薬新適応薬」で“A real advance”の総合評価をしている薬剤です。ギリアド社の製品で、2015年8月薬価収載され、1錠8万円の高薬価が話題となりました。薬価はその後特例再算定により31.7%引き下げられ、1錠54796.90円となっています。C型肝炎治療剤は、最初に単味剤のソバルディ(一般名ソホスブビル)が薬価収載、これはジェノタイプ2型が適応です。3か月遅れでC型肝炎の70%を占める1型のウイルス血症改善が適応のハーボニー(レジパスビル90mg /ソホスブビル400mg配合錠)が薬価収載されました。用法は1日1回1錠を12週間経口投与です。

臨床薬理論文は、日本人患者341症例を対象としたオープンラベルランダム化第3相試験(19臨床センターで実施)で、患者と研究者ともに治療割り付けがわかっています。資金提供者のギリアドは、試験管理、データ収集、統計解析、論文の執筆とレビューを監視(oversee)しています。割り付けは1: 1で、レジパスビル(LDV)90mg+ソホスブビル(SOF) 400mgと、これにリバビリン(RBV,日本のコベガス錠の患者体重に応じた用量を経口投与)を上乗せしたものの2群を比較しています。つまり、試験デザインはソホスブビルにレジパスビルを上乗せしたものとしないものとの比較などでなく、ハーモニーにリバビリンを上乗せしたものとしないものの比較となっているのが特徴です。層別割り付けは、未治療患者: 肝硬変の有無、既治療患者: 肝硬変の有無、既治療カテゴリーです。プライマリーエンドポイントは、治療完了後12週のHCV持続陰性化(SVR12)です(SVR: sustained virological response)。

結果は、有効性(SVR12)は、LDV+ SOF例が100%(98-100)、LDV+ SOF+RBV167例が98%(95-100)で、ともに100%ないしそれに近いHCV持続陰性化が得られました。また、C型肝炎ウイルスのNS5A抵抗変異体(L31M/VまたはY93H)を有する患者はSVR12を達成できない場合のあることが知られていますが、baseline NS5A抵抗変異体をもった76例のうち、75例(99%)がSVR12を達成しました。安全性は、LDV+ SOF+RBV 170例のうち2例(1.2%)が有害事象で治療を中断しました。最も普通に見られた有害事象は、LDV+ SOFは鼻咽頭炎50例(29.2%)、頭痛12例(7.0%)、倦怠感(malaise)9例(5.3%)、LDV+ SOF+RBVは鼻咽頭炎40例(23.5%)、貧血23例(13.5%)、頭痛15例(8.8%)でした。
著者たちは、日本では進行性肝疾患をもったHCVジェノタイプ1の患者母集団が通常高齢で治療経験者であるため、ハーボニーの有効性、耐用性、それに他の医薬品との相互作用がないことは、治療における重要な選択肢になり得ることを示唆しているとしています。
なお、プレスクリール誌の本剤の総合評価は、「ジェノタイプ1のC型肝炎ウイルス感染における治療的進歩、不確実要素を残すが(despite uncertainties)」です。ほぼ全例で持続する陰性化が得られ、ペグインターフェロンアルファとリバビリンという多くの害作用と制約のある2つの医薬品の使用が避けられることを評価しています。害作用はまだ十分に評価されていないので医療専門家による厳しい監視が必要としています。またギリアドによる法外な薬価は公共ヘルスケアシステムを危機に陥れており、質の高いケアへのアクセスの土台を掘り崩していると指摘しています。

薬のチェックTIP誌の薬剤評価は、代理エンドポイントである「HCV持続陰性化」(SVR)により有望な結果が得られているが、真に画期的と言えるためには、RCTによる長期予後の改善が必要としています。また、合剤の毒性試験が未実施など毒性試験に欠陥があることを指摘しています。メタアナリシスから、害を少なくし、膨大な医療費削減のため、L31とY93Hを検査(14000円程度)して、いずれかに変異がある場合にのみ12週投与とし、両者に耐性変異がない大部分の患者には8週で十分と提言しています。

当日の討論では長期予後のデータはこれからというものの、C型肝炎の治癒が期待できる点で、薬価が高価な大きな問題があるものの、治癒が期待できずわずかな延命効果のみを示す肺がんなどの新薬とは異なり、 数少ない“A real advance”の新薬と言えるのでないかと話し合われました。

第3相臨床試験のデザインがビリルビン併用の有効性安全性をみていることについては、理由記載がみあたらないが、第2相までで非常に高いHCV持続陰性化(SVR12)がみられていることが関係しているかもしれないと話し合われました。

薬剤師 寺岡