くすりのコラム プラセボ効果・ノセボ効果とパターナリズム(医療父権主義)(NEWS No.491 p08)

「血液検査の〇〇値がちょっと高いね。薬飲んでみましょうか。」とだけ医師から言われたと患者さんが処方箋を薬局に持ってくることがあります。永久に服用するかもしれない薬がこんな軽い調子で処方され始めます。患者の自己決定権が置き去りのまま、薬局で副反応や発生頻度、薬代金、未知の服用期間を知り驚くのです。このような場合薬局で「こんな薬飲みたくない。」と言われないような説明に私は終始してしまいます。プラセボ・ノセボ効果が患者の権利を脅かしていると言っても過言ではありません。ノセボ効果とはプラセボ効果の逆で、何の作用もない偽薬を服用して体に悪い影響がでることを指します。薬の副反応の説明がノセボ効果を生むとして薬の副反応について説明してもらっていないケースや副反応を「気のせい」にされていることがあります。子宮頚がんワクチンで起きる痛みを「心身の反応」としたことは医療現場における副反応に対する典型的なやり方に思えます。プラセボ・ノセボ効果を意識して対峙しなければ、自身に潜むパターナリズムを大きくしてしまうかもしれません。

弱オピオイド鎮痛剤ワントラム(トラマドール塩酸塩徐放錠)の審査報告書には「変形性膝関節症患者に対する国内第Ⅲ相二重盲検試験において、トラマドール塩酸塩徐放錠のプラセボに対する優越性が示された。」とあります。主要評価項目である試験期の FAS における「鎮痛効果が不十分」をイベントとした Kaplan-Meier 曲線では、イベント発生までの期間は、本剤群ではプラセボ群と比較して有意 に長かった(p=0.0047、log rank 検定)。試験期間終了時の効果持続率は、プラセボ群 59.5%、本剤 群 78.4%、プラセボ群に対する本剤群のハザード比[95%信頼区間]は 0.453[0.256, 0.802]と書かれています。一定量の NSAIDs の投与により鎮痛効果不十分の患者を対象としたこの試験で弱オピオイドとここまで対抗できるプラセボ効果を見ると「患者の知る権利を侵害して」プラセボを販売したくなります。

「最初にこんなことが起きるかもと話してくれていれば、目がこんなに悪くなる前に中止できたかも。」「副作用のない注射と医師から聞いていたのに。」「なんでこんな珍しい病気にかかったのかなあ…」「なんか最近、涙目でよく見えない。」「病院で3ヶ月に1回の注射したら正常血圧が200超えるねん。なんでかなあ。」これらは薬の副反応後遺症、または副反応を知らされていなかった患者さんたちの言葉です。パターナリズムでは安全な医療は提供できません。医療における患者の自己決定権を念頭においた情報の共有化がなければ無駄な医療費抑制も副反応被害を防ぐこともできません。過去のパターナリズムに戻ることなく、さらに医療情報開示を進めなければいけません。

薬剤師 小林