鈴木眞一氏の福島での甲状腺がん多発が被曝とは関係なく、スクリーニング効果としたClincal Oncology誌論文について(NEWS No.492 p06)

福島医大の甲状腺がん治療の責任者であった鈴木眞一氏が2016年Clinical Oncology誌に福島の「先行」検査の甲状腺がん結果についてのまとめを発表した。
福島の小児甲状腺がん多発は「先行」検査としての甲状腺エコー検査のマススクリーニングに起因するとし、放射線との関係を否定している内容であり、批判検討をしてみた。

1) 鈴木氏は「先行」検査で空間線量によって区分した3群間の甲状腺がんの頻度を同じ観察期間で比較していない。

(表1)に示すように、各群での甲状腺がんの有病率に差がないため放射線の影響ではないというのが鈴木氏の理論の根幹である。
避難13市町村については、2011年3月(福島原発事故時)に0-18歳であった集団について2011年度に一次甲状腺超音波検査を実施した集団が甲状腺がん評価の対象である。一方、いわき等34市町村については2年後の2013年度に、つまり2年間余分に経過した集団が対象である。したがって、両群の甲状腺がん頻度を同じ条件で比較する場合は、観察期間を同じくすることが必要である。

(表1)Clinical Oncology誌による3群分けと結果原著Table2より

市町村分け空間線量一次検査年度一次受診数受診率甲状腺がん有病率/10万
避難13市町村201141,810881433.5
中通り12市町村2012139,338865640.2
いわき会津34市町村2013119,328754235.2

二群間の観察期間を同じように比較する場合は、一次受診総数に観察期間を乗してこれを分母として頻度を比較すればよい。これを罹患率比較といい、観察期間を一年間とした場合は分母を人年として表す。実際には相対リスクを比較する。なお福島の甲状腺がん頻度を罹患率で比較し、多発を証明し世界中の疫学者多数を首肯させたのは岡山大の津田氏である。
事故の起こった2011年3月11日の原発事故以降の環境放射線の影響を調べるため(表2)に原発事故を観察スタートとしていわき会津等34市町村を1とした場合の相対リスク比をしめす。初期空間線量の多かった避難13市町村は少なかったいわき等34市町村より明らかに罹患率相対リスクが高いという結果であった。

2) 観察年数で人年補正をした罹患率の相対リスク比

市町村分け観察年数一次受診総数人年補正甲状腺がん罹患率/10万人年罹患率相対リスク比(95%信頼区間)
避難
13市町村
141,81041,8101433.53.08
(1.40-6.78)
中通り
26市町村
2.5169,158422,8956317.3 1.37
(0.72-2.60)
いわき等
34市町村
355,788167,3642414.8 1.32
(0.65-2.69)

2) 同じ群わけを「本格」検査に当てはめたとき、各群の観察期間開始時期は、潜在がんを除いた「先行」検査一次検査実施後のがんのない状態からと同じにできる。

(表3)で2016年6月6日の第23回県民健康調査会議時点の「本格検査」結果(2016年3月31日現在)を、鈴木氏の論文に合わせた三群分類に応じて罹患率の群間比較を行い、低放射線群に対する各群の相対リスク比の有意差を検討した結果を示した。

3) 「本格調査」での三群人年罹患率相対リスク比

市町村分け観察年数一次受診総数人年一次受診数二次受診/二次対象%悪性罹患率相対リスク比(95%C.I.)
避難
13市町村
4
34,480137,92084.3173.7
(1.78-8.94)
中通り
12市町村
4
124,218496,87278.8311.9
(0.9-4.0)
いわき会津34市町村5109,071545,35540.8 181.00
(reference)

(表3)はもっとも線量の低いいわき会津等34市町村に対し他二群の高線量地域で高い相対リスク比が示されている。ただし、このデータは、いわき等34市町村の二次検査が41%しか発表されていない。そのため第三群の甲状腺がん数を避難市町村と同じ受診率での18例と仮定して計算した。それでも、避難市町村のRRは3を超えている。最終結果はまだであるが、本格調査からも線量に応じた甲状腺がんの増加が認められる可能性が高い。なお、「本格調査」を「先行調査」と同様2011年3月11日を起点とした人年比較をしても、あるいは鈴木氏の手法である有病率比較をしても各群の観察期間が4-5年と似通っているため(表3)と同様の順序での容量反応関係が認められた。

3) 結論

鈴木氏の論文と反対に、多発する福島の甲状腺がんと放射線被ばくの関係が、空間線量での高中低線量地域の三群比較、甲状腺がんと非甲状腺がんの実効線量比較から明らかに認められた。

大阪赤十字病院 山本

【参考文献】
1.Suzuki S. Clinical Oncology 2016
2.Suzuki S. Thyroid 2016
3.Greenberg 医学がわかる疫学
4.Rothman ロスマンの疫学
5.第20,21,22,23回福島県民健康調査会議(英語版を含む)
6.Tsuda T. Epidemiology 2015